きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~
 表立って、ではないが。
 靴や狐の毛をあしらった冬物のドレスコートを、伯爵家御用達の商会から購入したのは、ジェレマイアだ。


 勿論、それはリデルには伝えない。
 リデルには借り物だと言って渡し、後日返却するように言う。
 返却されたそれらは、きっとジェレマイアのクローゼットに大切に保管されるのだろうけれど。




「だが、リデルがこれを挿すのを嫌がるようなら……」 

 自信なさげなジェレマイアはそれだけ言うと、邸内に入ってしまった。


 エラの知る白いビオラの花言葉が、その声の震えに表れているような気がした。


「いいえ、リデルは絶対に受け取ります」と言うエラの返事を待たずに行ってしまった彼の声に。



  ◇◇◇

 
 
「ジェレマイア様のためにではなく、リデルが望む事ならば、反対はしない」


 そうジェレマイアに宣言したエラは、友人の気持ちに気が付いた。


 2ヶ月ぶりに会ったリデルは、シェリーの結婚式にまつわる話や仕事の話はしたけれど、一言もジェレマイアについては話さなかった。 


 それで、分かってしまった。
 昔からリデルはそうだったから。


 自分にとって、大切な、重要な事は誰にも話さない。   

 若様が王都へ行く前は、仲良くしてた事。
 領地に戻って来た、若様に会った事。


 
 故意に話さなかったのだ。
 

 リデルが『それ』について、話す時は、何らかの答えを出してから。

 誰にも相談などせず、自分で決めて、自分で責任を取る。
 


 だから、きっと。

 リデルの中で、ジェレマイアへの想いが固まった時。


 彼女は幼い頃のジェレマイアとの白いビオラの思い出を、エラに話してくれるだろう。

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