きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~
 まるで悪巧みを持ち掛けるかのように、声を潜めるシェリーの誘惑にシーナは屈した。


 そうだ、うんと綺麗に着飾って行こう。
 わたしを捨てたクラークと。
 わたしを笑い者にしたリデルを見返してやる。


 そう思って参加したシェリーの結婚式は。


「すいませーん、従兄弟ね、今日は欠席みたいです」

 披露宴に行く前に、花嫁が走ってきて、いつもの微笑みを浮かべながら、シーナに手を合わせる。
 欠席なら仕方ない。
 他の男と知り合えばいいだけ。
 目ぼしいのが居なかったら、部の男の子達でもいいか。


 そう切り換えて座った披露宴の席は、隅の方で。
 同じ卓を囲むのは、マーティンの遠縁だと自己紹介された老人ばかり。

 他の皆は何処に居るのか、と探せば。
 若い彼等は会場のほぼ中央の1番大きなテーブルに集まっていた。
 花婿と花嫁の友人達が笑いさざめくその様子は、賑やかで楽しげで。
 憎いクラークも、いつもより派手でいい気になってるリデルも、そのテーブルだった。

 


 その夜、シーナは1人で飲んでいた。
 休息日の夜に営業している店は少なくて、初めて入った店だった。


「馬鹿にしやがって……馬鹿にしやがって……」

 何度も同じ台詞を、呪いのようにつぶやく。
 呪いの相手は何人も居る。

 クラーク、リデル、不倫相手、クラークの家族に、そしてシェリー。


 こんな目に遭わされて、いつもシェリーが浮かべていた微笑みの意味を思い知らされた。


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