きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~
 あの女はマーティンとの事を知っていたんだ。
 それを、わたしには気付かせないようにして。
 いつか、やり返してやろうと思ってた。
 結婚式に招待したのも、結婚出来ない男とばかり付き合うわたしを嗤うため。
 皆から祝われる幸せな花嫁姿を見せつけるため。


「馬鹿にしやがって……シェリー、クラーク。
 ……リデル……」


 何度も同じ言葉、同じ名前を呪うように繰り返す、その時。


「あー、そのリデルって。
 カーター? 父親はデイヴ?」

 
 シーナがくだを巻いている、カウンター席のその隣で。
 ずっと1杯のグラスをちびちびと飲んでいた中年の女がシーナに声をかけてきた。


「……はぁ、あんた誰よ?」

「誰でもいいだろ?
 で、リデルって?」

「そうだよ、カーターだよ」


 アルコールのせいで、判断力の無くなったシーナは誰とも知れない女の話を、肴にしようと聞く体勢に入った。


「あの親子もややこしいからね」

「ややこしい、って何なのよ?」

「へへ、続きは奢ってくれてから聞かせてやろう」


 女の話は、どうせくだらない事だろう。
 だけど、今夜のシーナは人恋しかった。
 誰にも相手にされていないような、そんな気分になっていた。
 だから、求められるまま、女に酒を奢った。


 たった1杯の酒だったが、女がシーナの耳元で語ったその内容は。


 それ以上の価値があった。

 
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