きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~
 昨日の昼まで、このドレスが店舗に飾られていた事を知るシェリーの母は、少しばつが悪そうに見えたが。
 洋品店のマダムであるガイルズ夫人の食い付きが凄くて、押し切られそうになったが、流されやすいリデルも、流石に本邸の名は出せないのが分かっていたので、
「内緒です」と曖昧に微笑んだ。
 
 揃って苦笑いを返してきたおふたりの関係は、シェリーが匂わせていたよりも良好なのだろう。




 その後新婚のガイルズ夫妻にも挨拶をして、会場からホールの玄関に向かうリデルを、追いかけてきたのは、またクラークだった。


 もう後がないクラークの事情など知らないリデルは、彼のしつこさにげんなりした。


「今夜は一緒に、食事する約束をしただろ、守れよ!」


 今夜、と言われて、リデルは思い出そうとした。
 クラークと約束なんかするわけがない。
 確か、彼が今夜の夕食の話をしていたので、適当にそうと相槌を打っただけ。
 あれがお誘いで、わたしが受けた事になってるの? 


「いいえ、行きません。
 行く訳がないでしょう?
 わたし達は終わりました。
 他の人を誘ってください、ライナーさん」

「……ライナーさん?」


 
 リデルがもう無関係なんだと敢えて家名で呼び、冷たく断ると、一瞬クラークはカッと目を見開いた。

 その様子とその目が。

 こんなにも必死にしつこく縋る、彼の危うさのようなものを宿しているように見えて、リデルはぞっとした。


< 93 / 225 >

この作品をシェア

pagetop