きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~
 御恩の返し方を指定されたリデルは何度も頷いて、エラに抱きついた。
 

「せっかくのお化粧が崩れるよ。
 無事に戻れるか、ずっと心配していたひとに、そんな顔は見せないであげてね。
 だから、泣くのは止めて、笑え」


 また、エラから命令された。
 クラークも来る結婚式に娘が行くのが心配で、父は送迎をすると言ってくれたのだ。
 エラのお陰で無事だった、と笑顔で報告したい。



 馬車は、先にエラのケール家に寄った。
 お世話になったエルザにも、今日の御礼が言いたかったが、エラの父も休暇なので、ふたりで出掛けて留守だと言う。



 最後にもう一度、御礼を言って、抱き締めて。

 家に入っていくエラを見送って。


 馬車に乗り込もうとする、リデルの手を。 
 手助けするために馭者が取る。
 ……その時、気付いた。


 さっきも多分、この馭者の男はリデルの手を取ったのだが。
 クラークを撃退できたね、とエラと笑いながら馬車に乗ったので、気にもしていなかった。 


 だが今は、この男が行きの馭者とは違うと気付いた。



 深く被ったフードで顔はよく見えない。
 だが、チラリと見えた馭者の髪色は。


 イングラム伯領領主、コート家特有の銀色だった。




「……会いに来て、ごめん」


 リデルの手を柔らかく包み込むようにそっと握り、その男は謝った。
 

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