鬼隊長は元お隣女子には敵わない~猪はひよこを愛でる~
「あの」

「なんだ?」

声をかけられ、係長が怪訝そうに俺の顔を見る。

「人質になっている愛川雛乃はその、俺の……妹のような人なんです」

恋人とは言えず、妹と濁した。

「それはご愁傷様」

係長はどこか他人事だが、身内だからと仕事に私情を挟めないのはわかっている。

「それで電話交渉、俺にさせてもらえないでしょうか」

「はぁっ?」

彼は半ば怒っているが、それはわかる。
同じ特殊係の人間とはいえ、俺は班が違って交渉の訓練など受けていない。
素人同然だ。
それでも。

「俺の声が聞こえれば、ひな……愛川さんが安心すると思うんです。
指示には従います。
余計なことも言いません。
どうかお願いします」

膝につくほど頭を下げた。
係長から返事はない。
無理な相談をしているのは承知の上だ。

「……わかった」

やはり許可はもらえないかと諦めかけた頃、ようやく係長が口を開いた。

「ただし、絶対に余計なことは喋るな。
私情は挟むな。
わかったな?」

「はいっ、ありがとうございます!」

もう一度、深く頭を下げる。
もし、ひなの声が聞ければ無事が確認できる。
< 111 / 130 >

この作品をシェア

pagetop