鬼隊長は元お隣女子には敵わない~猪はひよこを愛でる~
ヤツの腕がひなを抱き寄せる。
彼女は殴られたのか口の端が切れ、さらに目もとの色も変わっていた。
しかし怯えているかといえば、しっかりとした目をしている。
不意に彼女と目があったので、俺だと頷いた。
ひなも気づいたみたいで頷き返してくる。

「ひとり、犯人の注意を逸らせ。
その隙に人質を救出、取り押さえる」

部下たちが頷き、ひとりがそろりと気づかれないように犯人の斜め後ろにある室外機の陰へと移動する。
彼が準備完了だと合図を送り、俺もひなと目をあわせて頷いた。
ひなも俺たちがなにかするつもりだというのはわかったらしく、すぐに動けるように身がまえる。
それを確認し、部下にやれと合図を出した。
部下が室外機を叩き、大きな音がする。

「なんだ!?」

犯人がそちらへ気を取られ、腕が緩んだ瞬間。
ひながこちらに向かって駆けだす。
それに気づいた犯人が背後から拳銃を取り出してかまえるのが見えた。

「ひなっ!」

無我夢中で彼女へ向かって足を踏み出す。
そこからあとは、すべてがスローモーションのようだった。
パーン!と乾いた音がして、弾がひなに向かって飛んでくる。
< 115 / 130 >

この作品をシェア

pagetop