鬼隊長は元お隣女子には敵わない~猪はひよこを愛でる~
鼻白んだ様子で反論してくる彼女に全部言わせず、口を開く。

「私だって彼についていたいですよ。
でも、私は家族じゃないから病室に入れないんです。
それに私がめそめそ泣いて彼の怪我が治るならいくらでも泣きますが、そうじゃない。
それより私が泣いていたら彼が安心して寝ていられないので、私はちゃんとごはんを食べて、しっかりしていないといけないんです」

浮かんできた涙をぐいっと拭う。
私は家族じゃないから入れないのだと、ひさしぶりに再会したおばさんから申し訳なさそうに断られた。
こんなときなのに私は猪狩さんの傍にいられない。
それに一番、歯痒い思いをしているのは私だ。
なのに、あんな酷いことが言える人間が信じられない。

「安高課長の件だってそうです。
私が彼をそそのかしたとか、彼が私に貢ぐために着服していたとか。
事実と反する話を随分してくれましたね?」

「べ、別に、わざとってわけじゃ……」

もごもごと彼女が気まずそうに口の中で言い訳をする。

「おかげで私、警察からも本店の上層部からも疑いの目で見られているんですよね」

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