鬼隊長は元お隣女子には敵わない~猪はひよこを愛でる~
まあ、人質なんかになってもこうやって冷静に分析なんてしているから、可愛くない女だと言われるんだろうけれど。

不意に電話が鳴り、元上司の身体が怯えたようにびくりと大きく跳ねた。

「おい、雛乃(ひなの)
出ろ」

彼に高圧的に命じられ、カチンときた。
あなたから私を捨てたくせに、いまだに自分の所有物かなにかと思っているんですか。
ここまで最低な男だったとは、つくづく自分の男を見る目のなさを悲観した。

「あのー、これでは取れないですが」

従う気などさらさらないので、揶揄うように背中の後ろで固定されている手を上げ下げする。

「ちっ」

舌打ちをし、元上司は私のところへ来て強引に腕を引っ張った。
おかげで結束バンドが親指に食い込み、激しく痛む。

「痛い!
痛いんですけど!」

「うるさい!」

彼の怒号とともに平手打ちが私の頬に飛んだ。
衝撃でごろりと転がってしまった私を無理矢理、彼は電話の前に立たせた。

「指示以外のことを喋ったら、殺すからな」

後ろから抱きしめるようにし、元上司がナイフを私の喉へと当てる。
これにはさすがの私もすーっと背筋が冷えた。
彼の指が慎重にスピーカーボタンを押す。

『もしもし』

電話の向こうから聞こえてきたのは、私の大好きなお兄ちゃんの声だった。

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