鬼隊長は元お隣女子には敵わない~猪はひよこを愛でる~
第三章 初めての普通のデート
とりあえず兄と妹からと猪狩さんとのお付き合いが始まったわけだが、なにか進展があったかといえば……なにもなかった。
とにかく、私と彼と休みがあわないのだ。
こっちはカレンダー通りの土日祝日が休み、あちらはシフト制でさらに急な呼び出しがある。
……それでも。

「ひな」

私を見つけ、猪狩さんが読んでいた本から顔を上げて柔らかく笑う。

「ちょっと待ってね」

カップに残っていたコーヒーを飲み干し、彼はボディバッグに本を突っ込んで立ち上がった。
そのままカップを返却し、一緒に店を出る。
あれから猪狩さんが平日休みの日は一緒に食事に行くようになっていた。

「いつもの居酒屋でいい?」

「はい」

並んで歩くとき、彼はさりげなく周囲を見て私に危険がないか確認している。
歩くペースは速すぎず遅すぎず、私の速度にあわせてくれた。
おかげでなんだかいつも、守られているっていう安心感がある。

五分程度で目的の居酒屋に着いた。
お洒落なお店はあの日だけで、あとは居酒屋とか定食屋とかを利用している。
だって猪狩さん、すぐに「俺はひなのお兄ちゃんだから」って奢ろうとするんだもん!
< 41 / 130 >

この作品をシェア

pagetop