鬼隊長は元お隣女子には敵わない~猪はひよこを愛でる~
右頬を歪め、彼がにやりと笑うのを見てかっと頬が熱くなった。
揶揄われている!
相手が十も年上だと、いいように手のひらの上で転がされてしまう自分が憎い。

「ひな」

話が一段落したところで、猪狩さんは今日買った指環を取り出した。

「右手、出して」

彼が左手を出し、この上にのせろと促してくる。

「え、自分で着けますよ」

「いいから」

急かすように軽く手を揺らされ渋々、自分の右手を彼の左手にのせた。
すぐに薬指に指環が嵌められる。

「ひなはとりあえず、俺のものだって印」

彼の指がそっと、指環を撫でる。

「本当はこっちに着けたいけど」

もう片方の手で私の左手を取り、今度はそちらの薬指の根元を撫でた。

「今はこれで我慢」

彼の手が私の右手を持ち上げる。
レンズ越しにじっと目をあわせたまま、見せつけるように彼はそこに嵌まる指環に口づけを落とした。
たっぷりと余韻を持って唇が離れる。
手を下ろすあいだも視線は結ばれたまま途切れない。
知らず知らず、吐息が甘くなっていくのを感じた。
ゆっくりと彼の顔が私へと近づいてくる。

「……キス、していいか」

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