偽りの恋人から一途に愛を注がれています。
1.プロローグ
 ホテル『ウィステリアン』――。
 最高級のおもてなしを謳う国内屈指の高級ホテル。

 その絢爛なホテルの真ん前で、西原茉莉花(にしはらまりか)は冷や汗をかいていた。

「まあまあ! 可愛らしいお嬢さんね」
「颯馬と親しくしてくれるなんて、奇特な方だ。大事にしないとな」

 品の良いおば様とおじ様が、至極楽しそうに笑っている。

「母さんも父さんも落ち着いて。茉莉花が驚いているだろう? 中に入ってから挨拶しよう」

 肩を抱かれた茉莉花は、ぎこちない笑みを浮かべる。
 隣を仰ぎ見ると、肩を抱いている張本人――藤堂颯馬(とうどうそうま)が、少しだけ申し訳なさそうに眉を下げた。

 すみません、と耳元で囁かれる。
 茉莉花は笑顔を貼り付けたまま小さく首を横に振った。

 それでも内心は大パニックだ。

(この方々が颯馬さんのご両親!? まだ馴れ初めの設定とか聞いていない……。今から何を話せば良いの? 颯馬さんのこともよく知らないのに!)

 これから始まるのは、恋人のご両親への挨拶だ。
 それも偽りの恋人としての――。


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