偽りの恋人から一途に愛を注がれています。
颯馬には聞こえていないようだった。
相変わらず紳士的な笑みを浮かべてこちらを見ている。
「茉莉花さん、そろそろ行きましょうか」
「私ったら長話しちゃった! 引き留めてごめんなさい。茉莉花、また今度話そうね! もっと気楽な場所で!」
「う、うん……またね」
手を振る優香を背に、颯馬とともに歩き出す。
(釣り合わないって……そうだよね。不釣り合いだよね)
茉莉花は急にいたたまれない気持ちになった。
この高級ホテルで自分だけが浮いているような、場違いな場所に来てしまったような、そんな気になってくる。
(私なんかただの庶民だもんね。颯馬さんや優香とは違う……)
先程の優香の言葉がぐるぐると頭を巡り、茉莉花の心は沈んでいった。
茉莉花達を見送った優香は、小さく舌打ちをしていた。
「ほーんと釣り合わない。いつもみたいに奪っちゃえばいいか」
誰にも聞かれない呟きは、あっという間に消えていった。