幼なじみは、私だけに甘い番犬

 振り返った玄希に、火照る頬を冷まそうと手団扇で煽いでいたのがバレそうで、咄嗟に嘘を吐いてしまった。

「どこ?……見せてみ、俺が取ってやるよ」
「え、あっ……」

 目線を合わせるように少し屈んだ玄希は、私の頬に手を添えて、顔をずいっと近づけて来た。
 昨日の出来事が蘇る。

「っ……」
「んだよっ、せっかく取ってやろうと思ったのに」
「もう大丈夫っ」
「あっそ」

 ますます顔が赤くなりそうで、思わず彼を突き飛ばしてしまった。

 無駄にイケメンすぎるのが悪いのよっ。
 見慣れたはずの顔なのに、昨日『男の顔』を知ってしまったからか。
 心臓がばくばくと激しく脈を打つ。

「乗り遅れるから、少し走るぞ」
「えっ……」

 口元を覆っている手が掴まれ、有無を言わさず走らされる。
 まだ買って1カ月くらいしか履いてない真新しいローファーだから、かかとが当たって痛いのに。

「ねぇっ、……そんなに走って、大丈夫なの?」
「余裕!」

 軽やかに走る玄希の背中に声をかけると、フッと目元を緩めた彼が振り返って、どや顔で私の手を引き寄せた。
 本当にもう……大丈夫なのね。

 ホッと一安心した私は、玄希の手を振り解くのではなく、ぎゅっと握り返した。
 それが殊の外嬉しかったのか、玄希がさらに握り返して来た。

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