いきなり三つ子パパになったのに、エリート外交官は溺愛も抜かりない!
 十二月になり、裕斗がスイスに旅立った。五日程で帰国するそうだ。

 現地に着いたその日、麻衣子の昼休憩の時間に裕斗から電話があった。

《無事についたよ。今はホテルの部屋だ》
「よかった。スイスは夜だよね? 夕食は食べた?」
《今日は早く休みたいから簡単に済ませた》
「もしかして具合が悪いの?」

 ショートスリーパーの彼が早々に寝ると言うなんて珍しい。

《いや、早く起きて資料を確認したいんだ》
「そうなんだ、大変だね……」

 元々彼は今回の会議に出席を予定していなかったそうだ。それが同僚の入院で代役を務めるとのこと。優秀な彼でも事前準備に苦労しただろう。

「それじゃあ早く電話を切らなくちゃね」
《それは嫌だな》

 気を遣って言ったのに、裕斗は不満そうな声を出す。
《もう少しつきあってくれ。麻衣子の声を聞いていると疲れが取れる》
「そんなことないでしょう?」

 でも、彼の言葉がうれしくて、心が弾む。

(やっぱり裕斗さんが好き……)

 不安なことが沢山あるけれど、彼といると前向きな気持ちが蘇ってくる。

 なんとかなると思えるのだ。

「裕斗さん、帰国したら話し合をしたいの」

《え?》

「あの、これからのこと」

 裕斗はずっと復縁を望んでいてくれたから、きっと喜んでくれるだろうと思っていた。
ところが彼は黙り込んでしまった。

「裕斗さん?……もしかして話し合いは気が進まない?」
《いや、そんなことはない。そうだな、帰国したらふたりで合おう》
「うん、待ってるね」

 それから少し会話をして、通話を終えた。
 彼の声の代わりに、周囲の喧騒が耳に届きはじめる。
 麻衣子の日常の音だけれど、少しの寂しさが胸を過る。

(裕斗さん、早く帰ってこないかな……)

 切なさを感じながら、スマートフォンをバッグにしまった。

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