いきなり三つ子パパになったのに、エリート外交官は溺愛も抜かりない!
妊娠
 寒さが増した十月中旬。麻衣子は朝五時に起床して引っ越し作業に追われていた。

 直前まで使用していた生活用品を段ボールに詰めて、業者のトラックに積み込み終えたのがほんの十分前のこと。

「なんとか間に合ったね」

 麻衣子と同様に必死に作業をしていた絵麻が、疲れを取るようにぐっと伸びをした。

「うん。あとは引き渡しをして、私たちも新居に行かないとね。その前にお昼を食べていこうか」

 そろそろ正午になろうとしている。新居についてからも片付けで忙しいだろうから、移動中に食事を済ませた方が片付けもなくてよさそうだ。

「そうしよう。お腹すいちゃった。何を食べようかね、夜は引っ越し蕎麦にするとして……」

 絵麻はキッチンの出窓に置きっぱなしにしてあったスマートフォンを手に取った。よい店がないか探しているのだろう。

 その様子を見た麻衣子は、ほっとした気持ちで微笑んだ。

(少しは元気になったみたいでよかった)

 藤倉家とのもめ事と母の急変で、絵麻は精神的に参ってしまっていた。一時は食欲がなくなり、まともに食べられなかったくらいだ。
 けれど元々タフな性格なこともあり、一週間もすると徐々に立ち直り、今では新しい生活を送るために前向きになっている。

 完全に割り切った訳ではないだろうが、少なくとも笑うことはできていから、少しずつよくなっていけばいいと思っている。

 麻衣子自身も立ち直って来ているのではないかと思っている。裕斗に別れを告げた日は、この世の終わりかと思うくらい泣いたけれど、あれから十日が過ぎた今、絵麻の前では笑っていられるし、忙しくしていれば辛いことを考えないで済んでいる。
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