いきなり三つ子パパになったのに、エリート外交官は溺愛も抜かりない!
 人の記憶力は儚いもので、幸せも悲しみもいつか忘れてしまうものだと聞いたことがある。そのときは信じられなかったが、意外と真実だったのかもしれない。

(それとも私が薄情なだけなのかな)

 寝込むどころか、新生活に向けててきぱき動いているのだから。

「お姉ちゃん、どうしたの?」

 考えに沈みぼんやりしていたからか、絵麻が心配そうに声をかけてきた。麻衣子が妹を気にかけているように、絵麻もまた姉が心配なのかもしれない。

「なんでもない。狭い家だと思っていたけど、家具がなくなると以外と広かったんだなって」

 麻衣子は安心させるように微笑んだ。絵麻はほっとしたように表情を和らげる。

「そうだね。それに何もないと寂しく感じる」
「うん……」

 絵麻が言った寂しいは、この部屋を離れることの寂しさも込められているのだろう。

 父が亡くなってから母娘三人で暮らした場所だ。思い出だってたくさんある。

(まさかこんなふうに去ることになるとは思わなかったけれど)

 つい感傷に浸りそうになった麻衣子は、気持ちを切り替えるように笑顔をつくった。

「そろそろ行こうか」
「うん」

 絵麻とふたりで家を出る。

(新しい暮らしを頑張ろう)

 辛いことと悲しいことは、心の奥にしまって、一からやり直すつもりで頑張るのだ。
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