いきなり三つ子パパになったのに、エリート外交官は溺愛も抜かりない!
失恋 裕斗side

 雨村麻衣子は、裕斗が初めて結婚を願うほど本気で好きになった女性だった。

 だから別れてほしいと言われたとき、一瞬言葉の意味が分からず、現実を飲み込むことができなかった。

 麻衣子には、はっきりした言葉で結婚の意思を伝えている。彼女は受け入れてくれた。

 うれしそうにしているように見えたのは、裕斗の思い込みではないはずだ。

 それなのに、ほんの僅かな期間離れただけで、気持ちが変わるなど到底信じられない。

 麻衣子との別れは裕斗にとって、衝撃的な出来事で、別れてからひと月が経つ今もまだ、割り切れないでいる。

 別れたときの記憶は残酷なほど鮮明だ。 

『帰国して冷静になったら、やっぱり私には外交官の奥さんは無理だと思うの』

 麻衣子の声は、現実を受け入れられないでいる裕斗に対して残酷なほど冷ややかだった。

『ま、待ってくれ……』

 動揺のあまり声が震える。情けないが、それほどショックだったのだ。

 必死に麻衣子を繋ぎ止めようと言葉を続けるが、裕斗の願いは叶わなかった。
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