【完】同棲
「姫、お手をどうぞ?」
「あら、ありがとう?」
手を預けゆっくりと歩き出す。
玄関から家に入ると思いきや、裏側に案内されるようだ。
「今日は2人でおめかしして、何するの?」
「何すると思う?」
「んー、お祝いしてくれるのかな?」
「それも、あります。」
ニコっと笑って頷く。
私に見せるこの笑顔が大好き。
とても大事に想ってくれているのが分かる。
「では、こちらの部屋へどうぞ。」
目を合わせると、開けてみてと表情で促される。
この部屋は一週間前まで彼の仕事道具で山になっていた場所のはず。
折角庭に面しているし窓もあるから部屋として使ったら良いのにと言ったこともある。
もしかして…
少し期待しながらドアノブを触ろうとした瞬間…バチッ。
「アウチッ!」
「エッ⁈」
静電気だ。
「静電気www」
「ちょっwww」
「ここまで良い感じだったのにごめんw」
「俺は大丈夫だけどwあうち言うてたでw」
「言ってたw」
「まぁ慣れない事はここまででいいか〜」
「そうだね〜んじゃ普通に開けまーす♪」
「どうぞ〜♪」
ガチャっと開けるとそこは綺麗に片付けられていた。
「家具とかは無いの?」
そう、本当に何も無かった。
私は呆気に取られて部屋の前で立ち止まった。
「部屋の模様替え好きだし、こういう部屋が良いって想像するものがあるだろ?
だから、これから好きな物だけこの部屋に詰め込めよ。」
なるほどね、確かに勝手に入れられても好みじゃなかったら本末転倒か。
「まぁ、確かに私の好みは細かい所までハッキリしてるからね。」
そう言いながら振り返れば、俺偉いだろ?って感じの表情をしていた。
本当にこいつは…。
「そうだろ〜そうだろ〜やっぱりこういう感じがいいと思ったんだよな〜」
調子乗ってるなー。
あ、おちょくってやろ〜と♪
「でも私そんなにこの家来ないわよ?
お休みの日に来るくらいだから物もあまり置かないし。」
少し泳がしていたら彼はおろおろとし始め、涙目にもなっていてとても可愛らしい。
へへ、これくらいでやめておいてあげようかな♪
そう思った時、彼が喋り出した。
「あのっ!その、仕事場が近くなると思うんだ…よね……だからっ……あー、その、なんだ…あの…。」
言い淀みながらだんだんと彼の顔が赤くなっていく。
確かに私の仕事場なら今の住んでいるところより近くなるけど…。
「その……ここで、暮らしませんか。」
顔を真っ赤にして顔もこっちに向いていなければ目も閉じている、振り絞って出た声も弱々しい。
本当にこの人は…。
「はい、お願いします。」
私がそう言うとパッとこっちを向いて笑った。
無邪気な弾ける笑顔を見せる彼。
本当にこの人は可愛いんだから。
「これからもよろしくね、私の同棲さん♪」