ホワイトデーがんばろうの会
放課後、ざわざわと騒がしいファミレスで、男子高校生3人がひそひそ作戦会議をしていた。机の上には「ホワイトデーに喜んでもらうには」と書かれた紙が置いてある。今日返された小テストの裏紙だ。
 
「とりあえず、何を渡すか考えないと」
 
ペンを持った子が最初のテーマを口に出す。60点という微妙な点の小テストの持ち主である。平均点を下回ったテストのことなど、今の彼の頭にはない。対面に座った2人は、彼の言葉に神妙な面持ちで頷いた。議題に反して堅い空気が流れているテーブルに、店員が怪訝な顔をしながらポテトを運ぶ。既に3人ともドリンクバーから飲み物を取ってきているので、これで作戦会議の場が整ったことになる。
 
板橋、戸田、赤羽という某路線を彷彿とさせる名前を持った3人は、ホワイトデーに向けて協力関係を築いていた。事の発端は、板橋が戸田に悩みを相談したことだった。バレンタインのお返しに、何をあげたらよいのか分からない。そんな悩みに戸田は共感した。そして、偶然近くでそれを聞いていた赤羽も共感した。その結果、協力してホワイトデーを成功させようという話になったのだ。3人はこの関係に名前をつけた。「ホワイトデーがんばろうの会」、略して「ホワ会」である。
 
ホワ会の3人はお世辞にもモテるとはいえない。女の子にバレンタインチョコをもらった経験なんて、見栄を張っても両手で数えられる。もれなく3人ともだ。だからこそ、一人でホワイトデーのお返しを考えるわけにはいかなかった。同じ境遇に置かれたホワ会の団結は強固なもので、もはや十年来の親友のように見える。実際はまだ出会って1年も経っていないというのに。とはいえ、3人の置かれた境遇は完全に一致しているわけではない。板橋はもうすぐで交際1年を迎える彼女に、戸田はバレンタインに告白されて付き合うことになった彼女に、赤羽は長らく片思いをしているが一向に意識してくれない幼なじみに、といったように渡す相手が異なる。一人だけ可哀想な状況の気もするが、バレンタインチョコをもらえている時点で勝ち組なので、この際気にする必要はないだろう。
 
かくして、ホワ会は結成されたわけであるが、これまで特に何も活動をしてこなかった。「どうしようどうしよう」などと互いに言い合っていたのが活動と言えるなら、一応活動をしていたことにはなるが。そして迎えた本日、3月13日。この段になってやっと、全員が重い腰を上げた。というよりは、上げざるをえなかった。3人とも夏休みの宿題は最終日に取り組むタイプである。つまりそういうことだ。

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