最後の旋律を君に

繋がる音

ベッドの上に座り込み、スマホの画面を見つめる。

そこに表示されているのは、奏希さんとの連絡先。

――「今度、ピアノ教えてあげようか？」

奏希の言葉が、頭の中で何度も反響する。

ピアノを……また弾く？

その考えが浮かぶだけで、胸が苦しくなった。

私がピアノをやめたのは、自分が無力だと悟ったからだ。
どんなに努力しても、響歌のように華やかに人を魅了することはできなかった。
観客の視線も、賞賛の言葉も、すべて響歌のものだった。
私は、ただの"ついで"に過ぎなかった――。

（そんな私が、またピアノを弾いてもいいの？）

指先が震える。

スマホを持つ手に力が入らず、思わず画面を伏せた。

そのとき、ふわりとカーテンが揺れ、夜風が部屋に入り込む。

窓の外を見ると、月が静かに輝いていた。

（奏希くんみたいに、綺麗な音を奏でられたら……）

思わずそんなことを考えてしまった自分に、ハッとする。

私は――どうしたいんだろう？

ピアノをもう一度弾きたいのか、それともただ逃げ続けたいのか。

答えを出せないまま、膝を抱え込んだ。

すると、不意にスマホが震えた。

画面には、「奏希」の名前。

『悩んでる？ だったら、一度弾いてみたら？』

その短いメッセージが、まるで心の奥を見透かしているようで、息を呑んだ。

（……弾いてみる？）

指が、自然とスマホのキーボードをなぞる。

しばらく迷った末、私は一言だけ送った。

『……少しだけ、教えてほしいかも』

送信ボタンを押した瞬間、胸がドクンと跳ねる。

数秒後、すぐに返事が来た。

『了解。じゃあ、明日放課後、ピアノ室で待ってる』

それを見て、私は小さく息を吐いた。

（……私は、本当に大丈夫なんだろうか）

不安は消えない。

でも、少しだけ。

ほんの少しだけ、心の奥があたたかくなった気がした。