最後の旋律を君に

　冷たい冬の空気が頬をかすめる。
　街はクリスマスの装飾で彩られ、子どもたちの笑い声や、恋人たちのささやきがあふれていた。

　律歌は白いマフラーを首に巻きながら、病院へと向かっていた。
　手には、昨日選んだプレゼントのオルゴールを大切に抱えている。

　（奏希くん、喜んでくれるかな……）

　少しだけ緊張しながら、病室の前で立ち止まる。
　そっと扉を開けると、窓際のベッドに座っている奏希くんの姿が目に入った。

　「律歌……来てくれたんだ」

　奏希くんは驚いたように目を見開き、すぐに優しく微笑んだ。
　彼の声は少しかすれていたが、その表情はどこか穏やかだった。

　「うん、メリークリスマス、奏希くん」

　「メリークリスマス、律歌」

　二人は見つめ合い、自然と微笑み合う。
　窓の外では、静かに雪が降り始めていた。

　「これ、プレゼント……奏希くんに贈りたくて」

　律歌はそっと包みを差し出す。
　奏希くんは少し驚いた様子で瞬きをした後、丁寧に包装紙を開ける。

　そこにあったのは、小さなグランドピアノの形をしたオルゴール。
　奏希くんはそっと蓋を開けると、優しいピアノの旋律が流れ出す。

　――「You Are My Sunshine」

　奏希くんは目を伏せ、しばらくその音に耳を傾ける。
　そして、静かに言った。

　「……すごく、綺麗な音だね」

　「奏希くんの演奏みたいに、あたたかくて優しい音だったから……きっと奏希くんに似合うって思ったの」

　律歌の言葉に、奏希くんはふっと微笑んだ。
　まるで降り積もる雪のように、儚く、けれど確かに温かい笑顔だった。

　「ありがとう、律歌。これ……すごく嬉しい」

　奏希くんはオルゴールをそっと胸に抱きしめる。
　その姿に、律歌の胸がじんと熱くなった。

　「僕からも……プレゼントがあるんだ」

　そう言って、奏希くんは小さな紙袋を差し出す。
　律歌が驚いて受け取ると、中には銀色のブレスレットが入っていた。
　小さな音符のチャームがついていて、シンプルだけど上品なデザインだった。

　「奏希くん……これ」

　「君の手首に、音楽がずっと寄り添うように……そう思って選んだんだ」

　律歌は、じわりと涙がこみ上げるのを感じた。
　奏希くんの気持ちが、痛いほど伝わってくる。

　「ありがとう……大切にするね」

　律歌はブレスレットをそっと手首に着け、ぎゅっと握りしめた。
　奏希くんもまた、オルゴールを見つめながら、幸せそうに微笑んでいる。

　ふと、病室の窓の外を見ると、白い雪がふわりと舞い落ちていた。

　「雪……降ってるね」

　「うん……まるで、クリスマスの奇跡みたい」

　二人は並んで窓の外を見つめた。
　温かなピアノの旋律が、まだそっと響いている。

　――これは、きっと忘れられないクリスマスになる。

　そう、律歌は静かに確信した。