桜と果実
「なあ、萌葉さあ…」
先生の出て行ったドアを見つめていると、机に頬杖をついた杏汰が話しかけて来た。
「なんであの人が好きなの?」
「……」
「脈ないでしょ。それにあの人…」
「知ってる」
その先は口にしてほしくなくて遮った。杏汰にはいつの間にかバレていた。私が日志島先生を好きなことを。
「分かってるから、言わないで」
「…。やめときなよ、そんな無謀な恋愛」
眉を寄せる杏汰に私は「そうだね」と短く返す。
「そう…したいんだけどね」
捨てられるなら捨てたい。こんな辛いばかりの気持ち。
杏汰の言う通り、脈など欠片もない。そんなの初めから分かっていた。
だというのに、私は先生に、恋をしてしまったのだ。