君と。

やり直し

僕は行くはずだった映画のチケットを握りしめ、帰路に着いていた。
もうどうでもよかった。
彼女との出会いは、大学の食堂。
僕が躓いて料理をこぼし、慌てふためいていた所を手助けしてくれた。そこから僕に声をかけてくれるようになって、気づいたら両想いになり、付き合い始めていた。
僕は初めての彼女だったこともあり精一杯尽くし、誰よりも彼女のことを愛していた。愛し合っていた。
そんな僕の生きる糧だった彼女は今日いなくなってしまったのだけれど。
もう僕には何も無い。
家族にはとっくの昔に縁を切られていて、友達も上辺だけの関係の人しかいない。頼れるのは彼女だけだった。
彼女だけだったのに…。
もういっその事僕も後を追えばいいんじゃないか。
彼女のいない世界に意味などない。
星が瞬く中、僕は踏切の前に立った。こんな世界うんざりだ。踏切に入ろうとした瞬間。
「お兄さん、お兄さん、こっちに来なさいや」
老婆が声をかけてきた。
綺麗な白髪で、赤い着物を着ていて、目は潤っている。まるで老いを感じられなかった。
老婆は
「お兄さん今死のうとしたじゃろ？」
と言ってきた。僕はそんな老婆を無視して、もう一度入ろうとした。すると老婆は凄い力で僕の手を捕まえる。
「なんなんだよ！いい加減にしてくれ！」
俺は叫んでいた。早く彼女の元へ行きたい一心だった。
「そう慌てなさんな。」