うしろの正面だーあれ
「咲子…って呼んでもいい?」
トイレから帰った咲子に、突然 沙良が声を掛けた。
といっても、席が前後なのだが。
「うん、いいよ!」
咲子が快く答えると、沙良も にっこりと笑い、「よろしくね。」と言った。
しかし、次の瞬間 沙良は今までに見せたことのないような真剣な表情を見せた。
…いや、“深刻な顔付き”と言った方が適切だろうか。
そんな沙良の表情に、何か、嫌なものを感じとった咲子は心の中で身構えた。
「…あのね、咲子。」
「うん…?」
「ノート見せて?」
「…へ?」
「英語のノート。さっきの授業中、寝ててさ!全然 写せてないんだよね〜。」
「…あ、あぁ。
はい。どうぞ。」
「ありがと♪」
そう言って、沙良は くるりと体を反転させ、自分の席でノートを写し始めた。
…このとき気付くべきだった。
沙良が先程の授業中、一度も寝てはいなかったことに――…
それどころか、先程の授業というとホームルームで、英語ではなかったことは、このときの咲子が気付くには充分な材料であったのだが。