うしろの正面だーあれ
氷つく沙良に、俺は体制を立て直した。
沙良がカクカクと震えているのが分かる。
「沙良、出た方が良い。」
「ん……ふ…」
「沙良…?」
言葉もままならない沙良の顔を覗き込むと、沙良は今にも泣き出しそうな顔で俺を見ていた。
「ぎゅって…して…?」
俺は沙良の言う通り、今度は正面から抱きしめた。
俺が抱きしめると、カクカクと震えていたのが スゥ・・と消えていくかのように治まった。
「…このまま…ぎゅってしててね…?」
「うん…。」
俺が応えると、沙良は携帯をポケットから取り出して、震える指で通話ボタンを押した。
「もしもし…」
「沙良、どんだけ待たせんの?
23回もコール音が鳴ったのに気付かなかったの?」
23回のコールを待たされただけあって一喜の声は荒々しく、それがさらに沙良の震えを増した。
「ごめ…ちょっとトイレ行ってて…。」
「…本当?」
疑り深い一喜の言葉に、何度 冷や汗をかいたことだろう。
沙良は自信を持って言うしかなかった。
「本当だよ。」