うしろの正面だーあれ
玄関先の扉の前で、憂は一度 立ち止まる。
決心したと言っても、やはり躊躇ってしまう。
下を向いて心を落ち着かせる憂の後ろで、沙良は小刻みに震えていた。
無理もない。
出来れば二度と来たくない場所だったのだから。
息も巧く吸えない。
そんな沙良に気付いた憂は、ゆっくりと振り返り、沙良に言った。
「ちゃんと吐いてみな。」
「え…?」
「ちゃんと吐いたら、自然に吸えるから。」
言われた通りやってみるが、震えから巧く出来ない。
「ふはっ・・ふぅっ・・はふっ・・」
苦しそうな沙良を、憂は優しく抱きしめた。
「すぅ・・はぁ・・」
「そうそう。ゆっくり…。」
憂の体温を感じた沙良は、自然に呼吸が出来るようになっていた。
それを確認した憂は、沙良をそっと引き剥がし、「行くか。」と言った。
それは、試合開始のゴングのように、沙良の頭に鳴り響いた。