うしろの正面だーあれ



憂が倒れたこと、それは沙良にとって絶望を意味していた。



もう自分を助けてくれる者など居ない。



自分だけが頼りだなんて、こんなにも震える体で何が出来るというのだろうか。



ただ じっと我慢するしかないのだろうか。



それ以外に、死ぬ術は無いのだろうか…。



目の前に居る彼は、いたぶって、いたぶって、いたぶって…。



いっそのこと、死んだ方が楽だと思わせたいのだろう。



彼に殺してくれと頼むまで、自分は耐えねばならないのだろうか。



自分で死んだ方が、きっと楽だ。



しかし この状況下では、舌を噛み切って死ぬしか無さそうだ。



それは痛そうな上、苦しそうなので出来ればやりたくない。



ならば、彼のナイフを奪う…。



簡単ではなさそうだが、出来ないという確証も無い。



やってみる価値はある。






沙良は一喜を見据え、その視線をナイフに移した。



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