うしろの正面だーあれ
幸い、軽い脳震盪で済んだのであろう憂は、傷口から右手が離れてしまった沙良に駆け寄り、彼女の代わりに傷口を押さえた。
「もうすぐだから…。
もうすぐ救急車来るから…。」
いつのまに呼んだのだろう。
救急車のサイレンが近くから聞こえた。
「…実に残念だ。」
「…え?」
振り返ると、そこには、先程 沙良が落としたナイフを拾い上げた一喜が居た。
「…僕を、ここまで怒らせるなんて。」
ドスッ・・
鈍い音が響く。
「あに…き……ぐ…」
ドッ・・と一喜の肩に、憂の全体重がかかる。
誰も居なくなった家は血生臭く、壁や床に飛び散ったそれが全てを物語っていた。
救急車のサイレンに混じって、パトカーのサイレンが聞こえる。