うしろの正面だーあれ
しばらく雨に打たれ、沙良はバスに乗り込んだ。
今度は、もう泣かなかった。
心が、何故か落ち着いている。
沙良は窓の外をひたすら眺めていた。
唇に雨が当たったとき、あめの味がした。
沙良はフッと笑って、「憂のキス魔…。」と呟いた。
1時間程でバスが停まり、火葬場に着いた。
ゴクリと唾を飲む。
やはり、愛する人の骨など見たくはなかった。
しかし、釜のような物から出てきたのは、沙良が想像していた骨格標本のような骨ではなかった。
それなりに形はあるものの、生々しくはない。
沙良はホッと胸を撫で下ろした。
お骨を拾う。
その骨は脆く、強く掴めば崩れそうな程だった。
人間の脆さを感じた。
ブルブルと頭を振って訂正する。
憂は脆くなどなかったと。
自分を守ってくれたのだと。
溢れ出した涙を、沙良はグイッと拭った。
もう、簡単には涙を流さない。
今日が最後。
弱い沙良の命日。