【警告】決して、この動画を探してはいけません!

◆第一話『安高村』


――この記録を読んでいるあなたへ。
もし「安高村」という村を知っていたとしても、絶対に探そうとしないでほしい。
私は確かに、そこへ行った。あの祭りを見た。そして——

私のいとこたちは、居なくなってしまった。
当時、中学二年生だった私、山下夏美は、これから書き残す惨劇を全く予想していなかった。
――――


2022年8月13日(土)
祖母の一周忌のため、私たち家族は山奥にある安高村へ向かっていた。

「ねえ、あとどれくらい?」

私は後部座席でぼんやりと窓の外を眺めながら母に尋ねた。

「あと30分くらいかしらね」

車窓から見える景色は、東京のものとはまるで違っていた。
鬱蒼とした森、ぽつぽつと点在する古びた民家。
電柱の数は少なくなり、携帯の電波も不安定になり始めていた。

「つまんないなぁ……」

祖母の家には何度か行ったことがあるけれど、今回のように気が重いことはなかった。
ただ田舎に行って、親戚の集まりに顔を出すだけの退屈な時間。
唯一の救いは、いとこの松本裕也(16)と山下タケシ(16)が来ることだった。
二人は高1、私も中2になったが、今更、敬語なんて使わない。
小さい時から、名前を呼び捨てだ。

車の中でスマホを開くと、グループチャットに通知が来ていた。

【裕也】:「おーい、そっちはもう着いたか?」
【タケシ】:「俺らもうすぐ着くぞw」
【夏美】:「あと30分くらい。そっちももうすぐ?」
【タケシ】:「おう! ついたら動画撮ろうぜ!」
【裕也】:「心霊スポット巡りの配信、やるぞ!」

「……は?」

思わず声が出た。
また、この二人の悪ふざけが始まった。

安高村に着くと、懐かしい祖母の家が迎えてくれた。
土間の香り、軒先に吊るされた風鈴の音。
家の中にはすでに親戚が集まっており、久しぶりに会う顔ぶれに挨拶をする。

「夏美!」

大声とともに駆け寄ってきたのは、タケシだった。
少し身長が伸びた気がする。

「やっと来たか! ほら、早く裏に来いって!」

「え、ちょっと待って、荷物——」

「いいから!」

半ば強引に腕を引っ張られ、裏の倉庫へ連れて行かれた。
そこには裕也が待っており、スマホを片手にニヤニヤしていた。

「よーし、作戦会議だ」

「……何の?」

「動画撮影に決まってんだろ」

「……は?」

またこのパターンか、と私はため息をついた。

裕也とタケシは最近、心霊スポットや都市伝説を検証する動画を撮影し、動画投稿サイトにアップすることにハマっていた。
いくつかの動画はバズり、それなりに再生数も伸びているらしい。

「なあ夏美、お前カメラ得意だろ? 今回も撮影よろしくな」

「やらない」

「話だけでも聞けって!」

「……」

渋々、彼らの話を聞くことにした。

「この村には、絶対に覗いてはいけない社があるらしい」

「……社?」

「そう、祭りの最後に巫女が籠もって、一晩中念仏を唱える社。でもな、絶対にその中を覗いちゃいけないんだと」

「なんで?」

「知らん。でも、昔からの決まりらしい」

裕也はスマホを操作し、掲示板の書き込みを見せた。

【匿名】:「安高村の祭りを見た。巫女が社に入る瞬間を撮ったら、何か映った」

そこには、一枚の写真が貼られていた。
荒い画質のせいか、それともカメラのブレのせいか。
社の奥の暗闇に、ぼんやりとした影が見える。

「なにこれ……」

「わかんねぇ。でも、絶対にヤバい」

タケシがニヤリと笑う。

「俺たちがこの祭りを撮影して、社の中を暴いたら……めちゃくちゃバズるんじゃね?」

「バズるどころか、大問題になりそうだけど」

「大丈夫だって。どうせただの村の言い伝えだろ?」

「だから、カメラ担当の夏美、お前も協力しろ!」

私は再びため息をついた。

「……バカじゃないの?」

——本当に、くだらない。
この時の私は、ただ呆れていた。
まさか本当に、彼らの言う通りになってしまうなんて。

この時の私は、何も知らなかったのだ——。
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