【警告】決して、この動画を探してはいけません!
◆第十二話『忍び寄る視線』
2022年8月16日(火) 午後6時30分/タケシの自宅
自室に戻ったタケシは、ベッドに寝転びながらスマホをいじっていた。
動画はさらに拡散され、再生数もコメント数も爆発的に増えている。
「すげぇな……本当にバズってるじゃん。」
タケシは裕也の動画チャンネルを開き、コメント欄をスクロールした。
――――
コメント欄
「マジでヤバい映像!」
「巫女の後ろ、なんか動いてない?」
「見たら寒気がした……」
「この動画、途中から音ズレてる?」
「見てると気分悪くなる……けど、なんか目が離せない」
——そして、スクロールするうちに、妙な書き込みが増えてきた。
「動画見てたら、後ろに気配感じたんだけど」
「巫女の後ろに目のような物が……」
「俺んちの窓の外に何かいる気がする」
――――
「……何をわけわからん事を。適当な事言いやがって……」
そう呟きながらも、タケシは無意識に視線を横へ向けた。
自分の部屋の窓。カーテンの向こう側。
——何かが、いる。
一瞬、シルエットが見えた気がした。
鳥肌がぶわっと立つ。
タケシは固唾を飲み、恐る恐るカーテンを開いた。
「…………。」
窓の外には、誰もいなかった。
ホッとした瞬間——
ふと、窓ガラスに映る自分の姿に目を向ける。
背後の暗がり。そこに……
——濁った、黄色い目 があった。
「——っ!!?」
タケシは反射的に振り返る。しかし、そこには何もいない。
心臓がバクバクと鳴る。
タケシはカーテンを閉め、スマホを握りしめた。
(気のせい……だよな?)
そう自分に言い聞かせながら、深く息をついた。
2022年8月16日(火) 午後8時12分/SNSで広がる異変
タケシは落ち着くために、再びスマホを開いた。
だが、SNSには、さらに不穏な投稿が増えていた。
――――SNS投稿
「動画見た後から、なんか気分が悪い……」
「この動画、大丈夫なのか?」
「俺の部屋、さっきから変な音がしてる」
「画面の端、たまに何か映ってない?」
――――
「……これ、マジでヤバいんじゃ……」
タケシは裕也に相談しようと、スマホを手に取る。
その時——
コツ、コツ、コツ……
窓を叩く音が聞こえた。
タケシは動きを止めた。
「……風のせい、だよな?」
だが、その音は一定の間隔で続く。
コツ、コツ、コツ……
——まるで「タケシが開けるのを待っている」ように。
タケシはゆっくりと顔を上げ、窓の方を見た。
カーテン越しに、黒い影が動いている。
「…………。」
心臓の音が、嫌なほど大きく聞こえた。
タケシは、窓のカーテンを開けなかった。
ただ、じっと布団をかぶり、息を殺した。
(何もいない……何もいない……)
そう繰り返しながら、目を閉じた。
2022年8月16日(火) 午後11時03分/深夜の異変
夜。タケシは布団の中で身を丸めていた。
なんとか眠ろうとしたが、耳の奥に——
「キッ……キッキッ……」
かすかに、狒々の鳴き声が聞こえた。
(どこから……?)
耳を澄ますと、それは部屋の中から聞こえている。
——スマホのスピーカーから。
タケシは恐る恐る、スマホの画面を覗き込む。
画面が勝手に点灯し、動画が再生されていた。
『覗いてはならない社、ガチのヤバい映像』
再生開始——。
画面の中、社の暗闇の奥から“それ”がこちらを覗いていた。
いつもと同じ映像のはずなのに、タケシには違和感があった。
狒々の姿が……前より、少し近い。
(え……?)
タケシは、ぞわりと寒気を覚えた。
すると、画面の中の狒々が、ゆっくりと首を傾けた。
——キッキッ……キッ……。
その瞬間、窓の外からも「キッキッ……」という鳴き声が響いた。
タケシは、動画を見たまま、固まっていた。
(これは……見ちゃいけない……!)
本能が警鐘を鳴らす。
だが、目をそらすことができない。
画面の狒々が、タケシを見つめたまま、ゆっくりと動き出す。
まるで、タケシに近づいてくるかのように。
「……っ!!」
タケシはスマホを投げ捨て、布団をかぶった。
耳を塞ぐ。目を閉じる。
(何もいない、何もいない……!)
心臓が激しく脈打ち、全身が冷や汗で濡れていく。
——その時、スマホのスピーカーから、はっきりとした声が聞こえた。
「タケシ」
タケシの名前を呼ぶ声。
それは、かすかに裕也の声に似ていた。
タケシは、息を止めた。
——部屋の中に、誰かがいる。