【警告】決して、この動画を探してはいけません!
◆第二十一話『決行の夜』
2022年9月18日(日) 午前10時07分/安高村・社の下見
社へと続く小道を歩きながら、私は周囲を注意深く観察していた。
「……昨日の夜、何か変な気配を感じなかった?」
先を歩く裕也に尋ねると、彼は足を止めた。
「……まぁな」
「やっぱり……」
「巫女がさ」
裕也は社の方をじっと見つめながら呟く。
「夢の中で……俺の方を向こうとしてた」
私は、息を呑んだ。
「目隠しをしてるはずなのに?」
「ああ……でも、こっちを向こうとするんだよ。ゆっくり、ゆっくり……」
「……その後は?」
裕也は、一瞬言葉を詰まらせた。
「顔を見た瞬間、"キッキッキッ"って鳴き声が響いた。そこで目が覚めた」
「……」
私は何か言おうとしたが、言葉が出てこなかった。
「狒々が何か伝えようとしてる……?」
「いや、そんな感じじゃない」
裕也は力なく首を振った。
「"見たら終わる"って感じだった」
社へと続く小道の先に、社が見えてきた。
私たちは足を止め、無言でそれを見つめた。
(ここで……本当にやるんだ)
昨日の夜、確かに私は"気配"を感じた。
それが本当に狒々のものなのかは分からない。
でも——
「……準備を整えて、今夜、ここへ戻ってこよう」
私はそう言い、社から目をそらした。
裕也は黙って頷いた。
2022年9月18日(日) 午後8時13分/祖父の家・最終準備
目隠し用の布、懐中電灯、スマホ、お守り代わりの塩。
テーブルの上に並べられた道具を前に、私は深呼吸した。
「……間違いなく、この方法でいいんだよな」
裕也が、ぼそりと呟く。
「……たぶんね」
「たぶん、か……」
彼は苦笑しながら、スマホを手に取った。
「動画は、社の中で再生する」
「私は目隠しをして、念仏を唱える」
「動画を削除するのは……」
「狒々が社の中に固定された瞬間」
静かに、私たちは互いの顔を見つめた。
「……行こう」
裕也は、小さく息を吐きながら立ち上がった。
2022年9月19日(月) 午前1時58分/社へ向かう道
村の灯りはすべて消え、辺りは闇に包まれていた。
裕也と私は、懐中電灯の明かりを頼りに社へと続く道を進む。
「……静かすぎる」
裕也が低く呟く。
虫の声さえも聞こえない。
まるで、"何か"が私たちの到着を待っているかのように。
「……足元、気をつけて」
私は、できるだけ冷静に言った。
何度も通ったはずの道なのに、今日はやけに長く感じる。
(本当に……戻れるのかな)
不安が心の奥から湧き上がる。
それを振り払うように、私は懐中電灯を握る手に力を込めた。
(戻れる。終わらせるために来たんだから)
やがて、社が見えてきた。
裕也が立ち止まり、息を呑む。
私は、ゆっくりと社を見上げた。
静かに、そこに佇む社。
しかし——
(……いや、違う)
私は直感的に"異変"を感じた。
この社は、もう"ただの建物"ではない。
"何か"がいる。
この暗闇の中、確かに——"私たちを待っている"。
「……行くよ」
私の言葉に、裕也は小さく頷いた。
二人は、静かに社の扉へと手をかけた——。