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◆第二十六話『静寂』
2022年9月18日(日) 午前0時02分/社の中
「……終わった……のか?」
裕也のかすれた声が、静まり返った社の中に響いた。
私は、まだ石台の上に座ったまま、ゆっくりと辺りを見回した。
そこには——
何も変わらない、祭りの夜と同じ社の風景が広がっていた。
まるで、最初から"何も起こっていなかった"かのように。
狒々の気配は、もうどこにも感じられない。
重苦しい圧力も、異常な視線も、すべて消え去っていた。
ただ、社の中には"静寂"だけが残っている。
「……ほんとに、消えたみたいだな?」
裕也が慎重に辺りを見渡す。
「……うん」
私は小さく頷いた。
確かに、狒々はもういない。
でも——
この社の中の"静かすぎる"空気が、妙に不気味に思えた。
「……ここ、もう長居するべきじゃないよな」
裕也が静かに立ち上がる。
「うん、帰ろう」
私は石台から降り、裕也とともに社の入り口へ向かった。
社の扉に手をかけ、ゆっくりと開く。
——ギィ……
外の夜風がひんやりと頬をなでた。
外の景色は、来たときと変わらない。
夜の静寂に包まれた村の風景が広がっている。
まるで、本当に"何もなかった"かのように——。
社の前に立つと、ひんやりとした夜風が頬をかすめた。
遠くの方では、ぽつぽつと家々の明かりが灯っている。
田舎らしい、穏やかで静かな夜。
「ゲコ……ゲコ……」
田んぼの方からは、カエルの鳴き声が聞こえてくる。
風に乗って、どこか遠くで犬が吠える声もした。
夏の終わりの夜は、虫の声が響き渡り、時折、木々がさやさやと揺れる音がする。
村の人々はもう眠りにつき、ここには私たち以外、誰もいないはずだった——。
——村人たちは、何事もなかったかのように普段通りの生活を送っている。
「……ねえ、裕也」
私は社の方を振り返りながら、小さく呟く。
「村の人たち、狒々のこと知らないままなんだよね」
「……たぶんな」
裕也も社を振り返る。
「じゃあ、この祭りも……来年も、続くんだよね」
——狒々が封じられたまま、また来年も祭りは行われる。
何も知らない村人たちによって。
私は、社の暗闇をじっと見つめた。
(……これで、本当に"終わった"んだよね?)
そう、自分に言い聞かせるように——。
「……まあ、もう大丈夫だろ」
裕也がそう言いながら、スマホを取り出す。
裕也たちの動画は、もう残っていないようだ。
私は静かに夜空を見上げた。
田舎の夜は、こんなにも穏やかなのに——
さっきまでの出来事が、まるで夢だったみたいに思えてくる。
「……よかった、本当に消えたんだね」
私は小さく息を吐いた。
風がそよぐ音。
遠くで鳴くフクロウの声。
もう、何も起こるはずがない。
裕也と私は、静かに祖父の家へ向かって歩き出す。
だが——
その時、社の方から微かに"キッ……"という音が聞こえた。
私は思わず足を止め、振り返る。
だが、そこには——
何も、いなかった。