【警告】決して、この動画を探してはいけません!

◆第三十七話『闇の向こう側』


2022年9月19日(月) 午前0時35分/祖父の家
——ピタリ。

玄関のノック音が止まった。

しかし、それは"去った"わけではない。

むしろ、"待っている"ような静けさだった。

私は、手のひらに滲む汗を感じながら、喉を鳴らした。

(……この暗闇の中、本当に、外に出るの?)

足がすくむ。

今、ここを出たら——もう後戻りはできない。

「……夏美」

裕也が、小さな声で私を呼んだ。

私は彼の顔を見た。

彼の表情には、"覚悟"が宿っていた。

(……そうだ)

ここで立ち止まっている場合じゃない。

私たちはもう、決めたんだ——この呪いを終わらせるって。

私は、小さく息を吸い込んだ。

「うん……行こう」

静かに囁くと、裕也はゆっくりと頷いた。

祖父の寝室を通り過ぎる。
祖父は裕也が、寝室まで運んでくれた。

(……おじいちゃん、ごめんね)

眠り続ける祖父を一度振り返り、私は足を進めた。

家の中は、異様なほど静まり返っている。

いつもなら、夜でもどこかから虫の声や木の軋む音がするのに——。

今は、何も聞こえない。

(まるで、"この空間だけ切り取られたみたい")

そんな不安が胸をよぎる。

——ギィ……

裕也が慎重に裏口の扉を開けた。

外の空気が、一気に流れ込んでくる。

私は、ごくりと唾を飲んだ。

——ひゅうぅぅ……

夜風が肌を撫でる。

外は、見慣れたはずの家の裏庭だった。

だけど——今はどこか"違って"見える。

「……誰も、いない」

裕也が周囲を見回しながら、小声で呟いた。

私は、ゆっくりと玄関の方を振り返った。

家の表側——さっきまで"ノック"が聞こえていた方向。

暗闇に沈んだ玄関の扉は、微動だにしない。

本当に、何もいなくなったの?

(……いや)

——"いる"。

見えないだけで、まだ"そこにいる"。

そんな気配を、肌で感じていた。

私は、小さく息を呑んだ。

「……行こう、夏美」

裕也がそっと私の手を引く。

私は目を閉じ、意を決して一歩踏み出した。
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