【警告】決して、この動画を探してはいけません!
◆第四話『村の言い伝え』
2022年8月14日(日) 夕方/祖母の家
神社から戻ると、私はすぐにスマホを取り出し、今日撮影した動画を整理した。
・安高神社の鳥居をくぐる映像(午後2時22分)
・境内の祭り準備の様子(午後2時30分)
・社の前で神主に止められた映像(午後2時48分)
再生しながら、改めて今日の出来事を振り返る。
神主の言葉は短かったが、「社には絶対に近づくな」という強い警告が印象に残っていた。
(……あの社には、本当に何かあるんじゃないか?)
そんな考えが頭をよぎる。
「どうせなら、村の人にも話を聞いてみようか?」
ふいに裕也が言った。
「動画のネタ探し?」
「それもあるけど、俺たち以外の誰かの証言があった方が、リアリティが増すだろ?」
——確かに、ネットには安高村の祭りに関する詳しい情報がほとんどなかった。
村の古い言い伝えを知る人がいるなら、直接話を聞いた方が早いかもしれない。
「じゃあ、夕飯の後に、おじいちゃん達に聞いてみよう」
私たちはそう決めた。
2022年8月14日(日) 夜/親戚の集まり
夕飯の席には、両親、叔父叔母、いとこたちが集まっていた。
食事をしながら、裕也が何気ない調子で切り出す。
「そういえばさ、この村の祭りって、どんな由来があるの?」
すると、その場の空気が、少しだけ張り詰めた。
「……なんでそんなことを聞くの?」
叔母が不思議そうに尋ねる。
「いや、ちょっと興味があって。今日、神社の祭りの準備を見てきたんだけど、社の中を覗いちゃダメって言われたんだよね」
「……」
親戚たちは、一瞬顔を見合わせた。
その沈黙に、私は胸の奥がざわつくのを感じた。
「お母さんたちも、社の中って見たことないの?」
私がそう尋ねると、母は少し困ったように笑いながら答えた。
「ないわね。そもそも、社の近くには普通の人はあまり行かないものよ」
「なんで?」
「……昔からの決まりなのよ」
「じゃあ、どうして巫女さんは社の中に入るの?」
「それは……」
母が言葉を濁した時、祖父が低い声で言った。
「巫女が社に籠るのは、“神様”を迎えるためだ」
その瞬間、裕也とタケシの目が輝いた。
「神様?」
「どんな神様なの?」
「……それは誰も知らんが」
祖父は湯飲みを置き、ゆっくりと話し始めた。
「社の中には、美しい女神様が降りると言われている。古くから、この村を守ってきた存在だ。
普段は社の奥に眠っているが、祭りの夜だけ現れる。だから、巫女はその声を聞き、念仏を唱えるそうだ」
「……だったら、どうして中を覗いちゃダメなの?」
私が尋ねると、祖父はしばらく黙った。
「……神の姿を直接見ることは、決して許されない」
「どうして?」
「“神を見た者は、神に取り込まれる”と、わしが子供の頃から、そういう言い伝えがあった」
その言葉を聞いた瞬間、私は鳥肌が立った。
神様を見た者は、取り込まれる——?
(……じゃあ、あの社にいるものは、本当に“神様”なの?)
「それって、誰も見たことがないってこと?」
「そうだ。誰も見てはならんのだ。だから見た者はおらん」
祖父は聞き出せた内容はここまでだった。
親戚たちも、それ以上この話に関して知っていることは無いようだった。
神様の事を詮索してはいけない、そんな雰囲気を感じた。
私はふと、今日撮影した映像を思い出し、急に動画を再確認したくなった。
部屋に戻り、今日撮った動画を整理しながら、ぼんやりと考えていた。
・社の中を覗いてはいけない理由は、村人たちも詳しく知らない。
・「女神様」という存在を信じているが、それが何かは不明。
・巫女は念仏を唱えることで、それを鎮めている?
・姿を見ると取り込まれる?
「……結局、何もわからない」
ただ、ひとつだけ確かなことがある。
——誰も、社の中で何が行われているのかを知らない。
——でも、それを「見てしまった人」がいたら?
私は、思わずスマホを強く握りしめた。
裕也とタケシは、すでに「社の中を撮影するつもり」でいる。
私は止めるべきなのか、それとも……。
その時——
【 動画ファイル:「2022-08-14_1448.mp4(神社・神主の警告)」】
私は何気なく、その動画を再生した。
――映像開始
「この社には、絶対に近づいてはならん」
カメラの上下は反対のまま撮影されている。
神主の腰のあたりが映っている。
―― 映像終了
そして、再生を終えた直後、私は気づいた。
——最後の数秒、神主が立っていた背後に社が映っていた。
——社の雨戸の隙間に、一瞬だが何か光る物が映ったような気がした。
真っ暗な隙間の奥。
まるで眼のように思えた。