【警告】決して、この動画を探してはいけません!
◆第五話『社の中の影』
2022年8月14日(日) 深夜/祖母の家
私は、スマホの画面を見つめたまま、息を呑んでいた。
——最後の数秒、神主が立っていた背後に社が映っていた。
——社の雨戸の隙間に、一瞬だが何か光る物が映ったような気がした。
画面を拡大し、もう一度動画を再生する。
―― 映像開始
「この社には、絶対に近づいてはならん」
神主の低い声が響く。
その背後、わずかに開いた雨戸の隙間——
一瞬、そこに“何か”が映る。
黒い影のようなもの。
獣のような、光を放つ……眼だ。
――映像終了
私は、背筋に寒気が走るのを感じた。
(……これって、何?)
祖父は「社には美しい女神様が降りる」と言っていた。
でも、この映像に映っているものは、決して“美しい”とも“女神様”とも言えなかった。
——もし、本当に社の中に「神様」がいるなら、それは一体何なの?
私は、スマホを握りしめたまま、布団に倒れ込んだ。
——この村の人たちは、何かを隠している?
そう思わずにはいられなかった。
2022年8月15日(月) 午前/裕也とタケシへの報告
翌朝、私は裕也とタケシに昨夜の映像を見せた。
「ねえ、これ見て」
スマホの画面を見せながら、動画を再生する。
「……あ?」
「何だこれ、光?」
タケシが身を乗り出し、画面を覗き込む。
裕也も眉をひそめた。
「これ、社の中にいるんだよな?」
「うん。雨戸の隙間から見えた」
私は、小さく息を呑んだ。
「……もしかして、これが“神様”?」
「……いや、これはどう見ても神様じゃねえだろ」
裕也が呟く。
タケシは腕を組みながら考え込んだ。
「うーん、これは……やっぱり、社の中に何かがいるってことだよな」
「そうなるね」
私は、スマホを握りしめた。
(やっぱり、撮影するべきじゃないよ……。)
けれど、そんな私の考えとは裏腹に、裕也の目はギラギラと輝いていた。
「……これは、マジでヤバい映像が撮れるかもしれないな」
「おいおい、いよいよ都市伝説クラスのネタじゃねえか!」
タケシも笑う。
私は、焦りを感じた。
「ちょっと、そんな簡単に言うけど……これ、ヤバいやつかもしれないよ?」
「だからこそ、だろ」
裕也がニヤリと笑った。
「もし本当に“神様”が映ったら、それこそバズるネタになる」
「バズるとかの問題じゃないって!」
私は、思わず声を上げた。
「……あのね、これ、普通に考えておかしくない? だって、おじいちゃんは“美しい女神様”って言ったのに、これ、どう見ても違うよね?」
「そりゃそうだけどさ」
「だったら、何か裏があるって思わない?」
裕也とタケシは顔を見合わせる。
私は、必死に説得しようとした。
「例えばさ……村の人たちは“女神様”だと思い込んでるけど、本当は違うとか」
「……違うって?」
「例えば、本当はずっと昔から“何か”が社の中にいて、それを女神様だってことにしてるとか……」
裕也が考え込む。
「つまり、社の中の存在は、村人たちが言う“女神様”じゃないってことか?」
「……私は、そんな気がする」
私の言葉に、タケシが苦笑した。
「お前、怖くなったんだろ?」
「……は?」
「だからそんなこと言ってるんだろ? いいじゃん、撮影するだけなんだから」
「そうそう、こっそり撮って、すぐに帰ればいい」
「いやいや、こっそり撮るのがそもそもアウトなんじゃ……」
私はため息をついた。
だが、この時点で私は、二人の行動を止められないと悟った。
——どうせ、言ったところで聞く耳を持たない。
だったら、せめて私が記録を残しておこう。
そう考え、私はアプリの録画ボタンを押した。
<夏美の記録>
――――
2022年8月15日(月) 10:23/話し合い
撮影者:山下夏美
「2022年8月15日 午前10時23分。安高村の社についての話し合い」
私の事は放っておいて、裕也とタケシは嬉しそうに会話している。
――――
私は、小さくため息をつきながら、スマホのカメラを回した。
——ドキュメンタリーとしては、こういう記録も大事なのかもしれない。