☯あおむしの旅☯
 ぼくの声が聞こえたのか、おとこの人がふりむいた。目からぼろぼろなみだがながれている。

 おとこの人は、ぼくのほうをちらっと見て、また、がけの上に立った。

 あーっ、飛び降りちゃあ、だめー。

 そのとき、山と山のあいだにひろがって見えるうみのむこうが、黄金色にかがやいた。

 日の出だ!

 すいへい線から、あらわれた太陽が、すこしずつうみの上に、はいあがってきた。

 まばゆい光の中におとこの人のすがたがあった。

 太陽は、すいへい線からはなれ、天をめざして、ずんずんのぼってゆく。

 とつぜん、おとこの人が、

 「うおーっ」

と、さけんだ。

 あーっ、だめだよー。

 おとこの人は、岩の上にすわりこんでしまった。

 時間がとまったように、おとこの人はそこからうごかない。

 ぼくは心配で、心配で、目をはなすことができなかった。
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