冷徹大臣の雇われ妻～庶民出身成り上がり女官の次の就職先は伯爵夫人ですか～

プロローグ

　――どうしてこんなことになったのだろうか。

　リリアンは隣に立つ男を見つめた。

　背丈は高く、体格は細身。深い青の髪はさらりとしていて美しい。双眸は鋭い形をしていて、こちらも色は深い青だ。

　そんな彼は真っ白な花婿衣装に身を包み、目の前の『婚姻誓約書』にさらりと名前を綴る。

「どうぞ」

　彼の声にハッとして、リリアンは彼の手から羽ペンを受け取った。

　『リリアン・マニュス』と名前を綴り、羽ペンを元の位置に戻した。

　目の前にいる神父の合図で、リリアンは男と向かい合う。

　冷徹と名高いだけはあり、冷たい印象を与えてくる男だ。

（どうして、私はこの人と結婚することになったんだろう）

　何度も何度も同じことを思う。

　目の前のこの男――カンディードは国の財務大臣で、伯爵家の当主。比べ、自分は庶民階級出身の成り上がり女官。

　釣り合っていないのは明らかだった。