冷徹大臣の雇われ妻~庶民出身成り上がり女官の次の就職先は伯爵夫人ですか~
第1章
 どうしてリリアンがカンディードと結婚することになったのか。

 それは、今から半年前に遡る――。


「お義姉ちゃん! 起きて!」

 部屋のカーテンが音を立てて勢いよく開く。

 朝日の眩しさは寝起きの頭には強烈で、リリアンは光に背中を向けようと寝返りを打った。

 しかし、毛布まではぎ取られてしまうと、さすがに起きるほかない。

 瞼を開けると、見知った顔の女性が寝台の側で仁王立ちしていた。

 彼女はスカイブルーの瞳を吊り上げ、リリアンを見つめている。

「なによ、ロジアネ……」
「今、何時だと思ってるのよ!」

 女性――ロジアネが壁掛け時計を指さした。

 寝起きのぼんやりした頭で、リリアンは時計を見つめる。

「えっと、九時半?」
「違うわ。十時半よ」

 確かに目を凝らすと、十時半にも見える。

「私、十三時からお仕事に行くことになった――って、昨日言ったよね?」

 記憶を掘り起こす。

 しばらく思案して、リリアンはハッとする。

「そういや、夕飯のときに言ってたわね」

 昨日の夕飯の席でのロジアネの話を思い出す。

 普段は休みだが、明日は人手が足りないので出てきてほしい――と仕事先から言われたと。
< 3 / 28 >

この作品をシェア

pagetop