琥珀色の溺愛 ーー社長本気ですか?
「それよりラビの国から新しく出版された幼児雑誌の編集長ってまだ若い女性なんでしょ。どんな人?」
「高校卒業してお子さんを出産した後、一年遅れでA大の文学部に進学。新卒でラビの国社に就職したけどすぐに二人目を妊娠出産して一年育休を取って復職。知育絵本担当だったのが副編飛び越して編集長に抜擢された逸材ですって」
さらさらと流れるように新しい編集長の経歴を言う莉子に驚いていると莉子が意味ありげに微笑んだ。
「あそこのスタッフは編集長に関してよそで聞かれたらこう答えるようにって上から言われたそうです。これいわばマニュアル化された台詞なんですって。編集長にはまだ私も2回しか会ってませんけど、はつらつとした明るい方でした。既存の幼児向け雑誌の副編がこっちの副編にスライドして編集長を支えるんだそうです。社をあげて育てていく大事な人材なんだと思いますよ」
「へえー。おいくつか知ってる?」
「確か26才か27才じゃないかと」
「え、ホントに若いのね。私と1つ2つしか変わらないなんて」
片や編集長で二児の母、私はデザイン会社の雑用係ーーー天と地ほどの差があることにがっかりしてしまうけど勿論顔には出さない。
「はい。スタッフの年齢も他に比べて若い人が登用されているみたいで。だからその流れで私もやる気に満ちあふれてます。何とか私のデザインの物を売り込んで来ますよ」
右の拳を握りしめる莉子に「頑張って」と私も両手の拳を握って応援した。
「じゃあ、私は一度受付に顔を出して来ます」と言う莉子とラビの国社の近く別れ、私はそこから路地を一本入ったところにある花屋に向かった。
店の外から中の様子を窺うと幸い空いていそうだ。
私の大事な幼馴染みは作業台でガーベラの花束を作っていた。
「瑠璃」
「あらあらシュミット夫人じゃない。どうしたの、何か来週分に変更でもあった?」
顔を上げた瑠璃が私の顔を見てちょっと唇を尖らせた。
「発注に変更は無いよ。怒ってるのはわかるけど”シュミット夫人”はやめてよ。ほら、お宅の旦那様からお詫びの品を預かってきたからもう帰ってあげれば」
バッグから小さな箱を取り出して作業台の端に置かれたラッピングペーパーの上にそっと置いた。
瑠璃の目の前に置かなかったのはお花から落ちた花粉や水滴で小箱が汚れてしまうからだ。
「え、もしかしてこれジュエリーヤジマの」
ラッピングで気が付いたらしい瑠璃は作業の手を休めて小箱を凝視している。
「滉輔さん、今夜も帰りが遅くて直接渡せそうにないからって。いい加減帰ってあげなさいよ」
「えー。でも-」
「じゃあお詫びの品物はなしってコトで一旦晃輔さんに返しておくね。それで勿体ないから私が買い取ることにする。滉輔さんセンスいいからきっと素敵なジュエリーが入っているんでしょうね。なんだろう、ピアスかな指輪かな。ああきっとピアスだよね。瑠璃は手を使う職業だから結婚指輪以外は普段使い出来ないし」
どんなピアスかなーと言いながら小箱に手を伸ばそうとしたら瑠璃が「ダメっ」と横から奪うようにして小箱をポケットに入れた。
じとっとした視線を向けてくる瑠璃に
「ーーーさすがに私は人のダンナが恋女房に贈った物なんかいらないから、ね」
わざとらしく大きなため息と呆れ顔で返してやる。
「ごめん」と瑠璃が眉毛を下げた。
「いいけど。わかったんなら今夜は帰ってあげなさいよ。夫婦げんかの仲裁もこう毎回だといくら恩があるって言っても割に合わないんですけど?」
「あ、うん。その通りです。いつもスミマセン」
「じゃあ私いまから”シュミット夫人の業務”の時間だから行くね。次回の夕飯瑠璃の奢りってコトで手を打ってあげる」
ちょっと反省したらしい瑠璃にひらひらと手を振ってドアに向かう。
瑠璃は追いかけてこようとしたけれど、タイミングよくお客さんが入店してきて私にごめんと手を合わせて接客に回ることになり、私は笑みを返して店を出た。
「高校卒業してお子さんを出産した後、一年遅れでA大の文学部に進学。新卒でラビの国社に就職したけどすぐに二人目を妊娠出産して一年育休を取って復職。知育絵本担当だったのが副編飛び越して編集長に抜擢された逸材ですって」
さらさらと流れるように新しい編集長の経歴を言う莉子に驚いていると莉子が意味ありげに微笑んだ。
「あそこのスタッフは編集長に関してよそで聞かれたらこう答えるようにって上から言われたそうです。これいわばマニュアル化された台詞なんですって。編集長にはまだ私も2回しか会ってませんけど、はつらつとした明るい方でした。既存の幼児向け雑誌の副編がこっちの副編にスライドして編集長を支えるんだそうです。社をあげて育てていく大事な人材なんだと思いますよ」
「へえー。おいくつか知ってる?」
「確か26才か27才じゃないかと」
「え、ホントに若いのね。私と1つ2つしか変わらないなんて」
片や編集長で二児の母、私はデザイン会社の雑用係ーーー天と地ほどの差があることにがっかりしてしまうけど勿論顔には出さない。
「はい。スタッフの年齢も他に比べて若い人が登用されているみたいで。だからその流れで私もやる気に満ちあふれてます。何とか私のデザインの物を売り込んで来ますよ」
右の拳を握りしめる莉子に「頑張って」と私も両手の拳を握って応援した。
「じゃあ、私は一度受付に顔を出して来ます」と言う莉子とラビの国社の近く別れ、私はそこから路地を一本入ったところにある花屋に向かった。
店の外から中の様子を窺うと幸い空いていそうだ。
私の大事な幼馴染みは作業台でガーベラの花束を作っていた。
「瑠璃」
「あらあらシュミット夫人じゃない。どうしたの、何か来週分に変更でもあった?」
顔を上げた瑠璃が私の顔を見てちょっと唇を尖らせた。
「発注に変更は無いよ。怒ってるのはわかるけど”シュミット夫人”はやめてよ。ほら、お宅の旦那様からお詫びの品を預かってきたからもう帰ってあげれば」
バッグから小さな箱を取り出して作業台の端に置かれたラッピングペーパーの上にそっと置いた。
瑠璃の目の前に置かなかったのはお花から落ちた花粉や水滴で小箱が汚れてしまうからだ。
「え、もしかしてこれジュエリーヤジマの」
ラッピングで気が付いたらしい瑠璃は作業の手を休めて小箱を凝視している。
「滉輔さん、今夜も帰りが遅くて直接渡せそうにないからって。いい加減帰ってあげなさいよ」
「えー。でも-」
「じゃあお詫びの品物はなしってコトで一旦晃輔さんに返しておくね。それで勿体ないから私が買い取ることにする。滉輔さんセンスいいからきっと素敵なジュエリーが入っているんでしょうね。なんだろう、ピアスかな指輪かな。ああきっとピアスだよね。瑠璃は手を使う職業だから結婚指輪以外は普段使い出来ないし」
どんなピアスかなーと言いながら小箱に手を伸ばそうとしたら瑠璃が「ダメっ」と横から奪うようにして小箱をポケットに入れた。
じとっとした視線を向けてくる瑠璃に
「ーーーさすがに私は人のダンナが恋女房に贈った物なんかいらないから、ね」
わざとらしく大きなため息と呆れ顔で返してやる。
「ごめん」と瑠璃が眉毛を下げた。
「いいけど。わかったんなら今夜は帰ってあげなさいよ。夫婦げんかの仲裁もこう毎回だといくら恩があるって言っても割に合わないんですけど?」
「あ、うん。その通りです。いつもスミマセン」
「じゃあ私いまから”シュミット夫人の業務”の時間だから行くね。次回の夕飯瑠璃の奢りってコトで手を打ってあげる」
ちょっと反省したらしい瑠璃にひらひらと手を振ってドアに向かう。
瑠璃は追いかけてこようとしたけれど、タイミングよくお客さんが入店してきて私にごめんと手を合わせて接客に回ることになり、私は笑みを返して店を出た。