鬼ノ血

未来

1. 未来へ続く剣

京都のとある剣道場。

ここには、"ある伝説"が残っていた。

——かつて、この地には最強の剣士がいた。
——彼女は新選組の魂を受け継ぎ、数多の戦いを駆け抜けた。
——その名は、沖田想乃叶。

「先生、先生！」

小さな少年が、道場主の元へ駆け寄る。

「またその話！？ 俺、知ってるよ！」

「じゃあ、聞かせてごらん？」

道場主は、優しく微笑む。

「えっとね……沖田想乃叶って人は、新選組の生まれ変わりで、すごく強くて、剣の才能があって……！」

少年は勢いよく話し出す。

「でもね、剣だけじゃなくて、仲間のことも大事にしてたんだって！」

「それに……最後には、裏の世界の悪いやつらを全部倒して、みんなを守ったんだ！」

道場主は、静かに頷く。

「そうだね。彼女は剣士だった。でも、それだけじゃない。想乃叶は、"人を守る者"だったんだよ」

少年は、憧れの眼差しを向ける。

「俺も、想乃叶みたいな剣士になれるかな？」

道場主は微笑みながら、少年の頭を優しく撫でた。

「もちろんさ。君が剣を振るう理由を見つければ、きっと——」

「想乃叶みたいに、強くなれるよ」

2. 遺された剣

道場の奥には、一振りの木刀が飾られていた。

長年の使用で少し傷ついているが、それでも美しく、品格があった。

——この剣は、かつて"剣士"だった少女のもの。

——戦いの果てに、彼女が手放した最後の剣。

道場主は、そっと木刀を見つめる。

「……想乃叶、お前の剣は、まだここにあるよ」

少年たちの未来に、その魂が受け継がれていく——

想乃叶という剣士がいたことを、決して忘れさせないために。

1. 木刀に宿る記憶

夜の道場。

少年は、皆が帰った後も一人で稽古を続けていた。

「……はっ！！」

振り下ろされた竹刀が、空を切る。

しかし——

「……違う……これじゃダメだ……」

少年は悔しそうに竹刀を握りしめた。

"想乃叶みたいな剣士になりたい"

そう思って剣を始めたけれど、どうすれば彼女のようになれるのか分からない。

「……本当に、そんなすごい剣士だったのかな……？」

ふと、道場の奥に飾られた木刀が目に入る。

道場主が「想乃叶が最後に使っていたもの」と話していた剣——。

少年は、木刀にそっと手を伸ばした。

その瞬間——

フッ……と、風が舞った。

「……？」

空気が変わった気がして、少年は木刀を見つめる。

すると——

——気のせいだろうか？木刀を通して、誰かの声が聞こえた気がした。

「……"剣は、人を守るもの"……」

柔らかく、それでいて芯のある声。

「……誰？」

少年は思わず声に出した。

もちろん、返事はない。

しかし、不思議と心が落ち着いていく感覚があった。

「……そっか」

少年は静かに目を閉じ、木刀を握りしめた。

「俺が強くなりたいのは……"誰かを守るため"なんだ」

剣を振るう理由——その答えが、少年の中で明確になった瞬間だった。

2. 道場主の回想

翌朝。

少年が道場に来ると、道場主が静かに木刀を眺めていた。

「先生？」

道場主は、優しく微笑んだ。

「この木刀を手に取ったのか？」

少年は驚いた顔をしたが、すぐに頷いた。

「……うん。なんだか……想乃叶さんが、そこにいる気がした」

その言葉に、道場主は目を細める。

「……そうか」

「想乃叶は、今でもここにいるのかもしれないな」

少年は驚いたように道場主を見つめた。

「先生、想乃叶さんのこと……知ってるの？」

道場主は微かに笑いながら、目を閉じた。

「……ああ、知っているとも」

「私も、かつて剣を学び、彼女の志を受け継いだ者だからな」

少年は目を輝かせる。

「じゃあ、先生もすごい剣士だったんだね！」

道場主は首を振った。

「いいや、私はまだまださ。ただ……」

そう言って、道場主は優しく木刀を撫でた。

「想乃叶の魂は、剣を通して生き続ける。それを知っているだけだよ」

「剣は技だけじゃない。"心"がある者が持つからこそ、本当の力を発揮するんだ」

少年は、その言葉を胸に刻んだ。

3. 未来の剣士

それから数年後——

少年は立派な剣士となり、道場の後継者となっていた。

道場には、新たな若者たちが集まり、想乃叶の伝説は今も語り継がれていた。

ある日、道場の片隅で少年（今は青年となった）が木刀を手に取る。

「……想乃叶さん、俺もいつか、あなたのような剣士になれるかな？」

静かに目を閉じると、あの日と同じように微かに風が舞った。

——ふふっ……きっと、なれるよ。

微かに、そう囁く声が聞こえた気がした。

少年は微笑み、剣を構えた。

想乃叶の魂を受け継ぎながら——未来へと、剣を繋いでいくために。


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