鬼ノ血

維新志士来襲

1. もう一つの“幕末”

「維新志士……?」

想乃叶はその言葉を繰り返した。

「なんで今さらそんな名前が?」

「"鬼狩り"は俺たちだけじゃねえってことさ」

土方が低く呟く。

新選組の本拠地、"屯所"に迎えられた想乃叶は、わずか数時間で“鬼狩り”の一員として認められた。だが、その余韻に浸る間もなく、新たな不穏な情報が舞い込んできたのだ。

「"維新志士"——簡単に言えば、俺たちの敵対勢力さ」

坂本龍馬がいつもの軽い調子で言う。

「鬼を狩る目的は同じだが、あっちは"鬼の力を利用する"ってスタンスだからな」

「鬼の……力?」

「そうだ。新選組は鬼を斬る。だが、維新志士は鬼と"共存"し、その力を取り込むことを考えている」

(鬼と共存……? そんなこと、本当にできるの?)

想乃叶の疑問が口をつく前に——

「ッ……来たぞ」

土方が鋭く言った。

ゴォォォン……!

屯所の外から、異様な衝撃音が響いた。

「……チッ、早速襲撃かよ」

龍馬が拳銃を構える。

「想乃叶、ついて来い!」

土方が刀を抜き、屯所の外へと駆け出す。

想乃叶も竹刀を手に、後を追った。

(維新志士……一体、どんな人たちなの?)

胸の高鳴りとともに、彼女は初めての"組織戦"へと足を踏み入れる。

2. "長州の天才"

夜の街に出た瞬間、想乃叶は驚いた。

目の前に立っていたのは、着流し姿の青年だった。

「——やあ、"鬼ノ血"の継承者さん」

微笑みながら言うその男は、知的な雰囲気を纏いながらも、どこか威圧感を放っていた。

「僕は桂小五郎。"維新志士"の一員だよ」

「桂小五郎……!」

歴史の授業で何度も聞いた名だった。

(新選組と敵対した長州藩の志士……)

土方が前に出て、鋭く睨む。

「……何の用だ、桂」

「交渉しに来たんだよ」

「交渉?」

想乃叶が思わず口にすると、桂は優雅に微笑んだ。

「"鬼ノ血"の力、僕たちのために使う気はないかい?」

「は?」

「君の力は新選組にはもったいない。僕たち維新志士と共に、新しい時代を創る気はない?」

「……」

唐突な勧誘に、想乃叶は言葉を失った。

(新しい時代……? でも、それって……)

想乃叶が言葉を探していると、土方が前に出た。

「……寝言は寝て言え、桂」

「相変わらず怖いね、君は」

「鬼の力に頼る貴様らに、時代を語る資格はねえ」

「鬼を"狩る"か、"使う"か——その違いだけさ」

桂の表情から笑みが消えた。

「君たちが"時代遅れ"になっていることに、気づいていないのか?」

その瞬間——

ザッ!

桂が手をかざした。

「——"影縫い"」

ドシュッ!!

次の瞬間、土方の足元から黒い影が伸び、彼の動きを封じた。

「クッ……!」

「さすがの君でも、僕の"影縛り"には逆らえないよ」

「"異能"か……!」

「そう。僕の力は"影を操る"こと。そして、これが——」

桂が軽く指を動かすと、影が形を変え、無数の刃となって土方へと襲いかかる。

「土方くん!!」

想乃叶が動こうとした、その時——

「いやあ、怖い怖い」

間に割って入ったのは、坂本龍馬だった。

「"影縛り"……厄介やけど、こっちにも策があるぜ?」

彼の拳銃が、青白い光を帯びる。

「——"雷鳴・散華"」

バリバリバリッ!!!

雷の弾丸が放たれ、影をかき消した。

「チッ……」

桂は舌打ちし、影を引いた。

土方がその隙に距離を取る。

「なるほど、さすが龍馬だね」

「まあな」

「……交渉は決裂か」

桂が肩をすくめる。

「じゃあ、今日はここまでにしよう」

そう言うと、彼は闇の中へと消えた。

想乃叶は、未だざわめく心を抱えながら、その背中を見送った。

3. 幕末の戦い、再び

「維新志士……思った以上に厄介だな」

屯所に戻った土方が苦々しく呟いた。

「"影縛り"……あれ、厄介すぎない?」

「まあな。でも、想乃叶、お前の"朧月"なら対抗できるかもしれんぞ」

「えっ?」

「時間を操れるお前なら、影の動きをズラせるはずだ」

「……確かに」

想乃叶は、新たな戦いの予感に胸を高鳴らせた。

(新選組と維新志士……鬼を巡る戦い……)

(この時代で、私は何を選ぶんだろう?)

彼女は、夜空を見上げながら静かに考えた。

だが、その答えを出すには、まだ時間が必要だった——。
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