十五年の石化から目覚めた元王女は、夫と娘から溺愛される
気まずい夕食の後で、カミラはルークに呼び止められた。
「今日のうちに話しておきたいことがあります。そのために、早く帰ってきたのです」
真剣な目で言われると、嫌ですとは言えない。
渋々カミラはルークについてリビングに移動し、二人分のお茶を淹れたメイドが下がってから、ルークが切り出した。
「単刀直入に申しますと、これから二年ほど遠征業務に出向くことになりました」
「……えっ?」
あまりにも突然すぎてカミラが絶句する中、ルークは淡々と語る。
「長い間王都を離れることになりますが、その間あなたが不自由しない程度の蓄えはあります。交通の便もあるので、手紙のやりとりも可能です。それに――」
「ま、待って、ルーク」
確定事項を淀みなく話すルークに待ったをかけて、カミラは混乱する頭に手をやった。
(遠征業務? 二年? そんなの聞いていないわ!)
「私たちまだ、新婚でしょう? それなのに二年も遠征に出るの?」
「……はい。カミラ様には寂しい思いをさせるかもしれませんが、必ずや成果を上げて帰って参ります。それに国王陛下がおっしゃるに、この遠征業務で活躍すれば昇叙の機会もあるとのことで」
「昇叙……」
「はい。伯爵位は難しくとも、子爵位ならば手に届くかと」
ルークの言葉に、カミラは目の前が真っ暗になった。
(そうだわ。ルークは男爵位を授けられると聞いたとき、明らかに不満そうにしていたわ……)
もし結婚相手がパメラだったら、彼はベレスフォード伯爵になれた。毎日仕事漬けになることもないし、パメラは王族として内政の教育を受けているから妻と協力して領地経営をしつつ、のんびり新婚生活を送れたのだ。
だが結婚相手がカミラになったことで、彼の身の回りの全てがランクダウンした。今の稼ぎは全てカミラに捧げ、自分は少しでも爵位を上げるために長期間の遠征に出向かなければならない。
カミラと、結婚したせいで。
(私は、この若くて将来有望な夫に余計な苦労しか与えられていない……)
「……出発は、いつになるの?」
もはや彼が遠征に行くのは決定しているようなのでそれだけ問うと、ルークは指を折って日数を数え始めた。
「確か、あと五日で出発だったかと」
「五日しかないの?」
「遠征部隊が、急に組まれたようなので。本来ならばこういうこともあなたと相談するべきなのでしょうが、遠征人員の決定まで余裕がなかったので独断で決めました。……申し訳ございません」
「……謝らないで」
謝るべきなのはむしろ、カミラの方だ。
仕事だけではなくて遊んだりもしたいだろう年頃の彼を仕事漬けにさせているのは、カミラの方なのだから。
五日経ったら、ルークは王都を離れてしまう。次に彼が帰ってくるのは、二年後。
本当は、子爵位なんていらないから行かないでほしかった。
もっと話したいし、もっと一緒にいて、お互いのことを知る時間を持ちたかった。
(でも……無理よね)
ルークの固い決意が感じられる目を見ているとわがままを言うことなんてできなかったし、ふと、別の考えが湧いてきた。
(結婚して二年間も白い結婚が続いたら、きっと離縁のきっかけになるわ)
二年経ったら、カミラはもう二十六歳だ。それに比べてルークは十八歳で、これからますます魅力的になっていく年齢だ。
二年間白い結婚状態なら、離縁できる。ルークを解放することができる。
(……もうそれくらいしか、私にできることはないのかもしれないわ)
だからカミラは微笑んで、うなずいた。
「わかったわ。あなたが決めたことなら、私からは何も言いません」
「カミラ様……ありがとうございます」
「ただ、どうか無事でいてね。あなたが元気でいたら、私はそれで十分だから」
ルークさえ無事なら、パメラもきっと安心するだろう。
そのためにも、カミラは二年後にルークを自由の身にさせたい――と思っていたのだが。
「今日のうちに話しておきたいことがあります。そのために、早く帰ってきたのです」
真剣な目で言われると、嫌ですとは言えない。
渋々カミラはルークについてリビングに移動し、二人分のお茶を淹れたメイドが下がってから、ルークが切り出した。
「単刀直入に申しますと、これから二年ほど遠征業務に出向くことになりました」
「……えっ?」
あまりにも突然すぎてカミラが絶句する中、ルークは淡々と語る。
「長い間王都を離れることになりますが、その間あなたが不自由しない程度の蓄えはあります。交通の便もあるので、手紙のやりとりも可能です。それに――」
「ま、待って、ルーク」
確定事項を淀みなく話すルークに待ったをかけて、カミラは混乱する頭に手をやった。
(遠征業務? 二年? そんなの聞いていないわ!)
「私たちまだ、新婚でしょう? それなのに二年も遠征に出るの?」
「……はい。カミラ様には寂しい思いをさせるかもしれませんが、必ずや成果を上げて帰って参ります。それに国王陛下がおっしゃるに、この遠征業務で活躍すれば昇叙の機会もあるとのことで」
「昇叙……」
「はい。伯爵位は難しくとも、子爵位ならば手に届くかと」
ルークの言葉に、カミラは目の前が真っ暗になった。
(そうだわ。ルークは男爵位を授けられると聞いたとき、明らかに不満そうにしていたわ……)
もし結婚相手がパメラだったら、彼はベレスフォード伯爵になれた。毎日仕事漬けになることもないし、パメラは王族として内政の教育を受けているから妻と協力して領地経営をしつつ、のんびり新婚生活を送れたのだ。
だが結婚相手がカミラになったことで、彼の身の回りの全てがランクダウンした。今の稼ぎは全てカミラに捧げ、自分は少しでも爵位を上げるために長期間の遠征に出向かなければならない。
カミラと、結婚したせいで。
(私は、この若くて将来有望な夫に余計な苦労しか与えられていない……)
「……出発は、いつになるの?」
もはや彼が遠征に行くのは決定しているようなのでそれだけ問うと、ルークは指を折って日数を数え始めた。
「確か、あと五日で出発だったかと」
「五日しかないの?」
「遠征部隊が、急に組まれたようなので。本来ならばこういうこともあなたと相談するべきなのでしょうが、遠征人員の決定まで余裕がなかったので独断で決めました。……申し訳ございません」
「……謝らないで」
謝るべきなのはむしろ、カミラの方だ。
仕事だけではなくて遊んだりもしたいだろう年頃の彼を仕事漬けにさせているのは、カミラの方なのだから。
五日経ったら、ルークは王都を離れてしまう。次に彼が帰ってくるのは、二年後。
本当は、子爵位なんていらないから行かないでほしかった。
もっと話したいし、もっと一緒にいて、お互いのことを知る時間を持ちたかった。
(でも……無理よね)
ルークの固い決意が感じられる目を見ているとわがままを言うことなんてできなかったし、ふと、別の考えが湧いてきた。
(結婚して二年間も白い結婚が続いたら、きっと離縁のきっかけになるわ)
二年経ったら、カミラはもう二十六歳だ。それに比べてルークは十八歳で、これからますます魅力的になっていく年齢だ。
二年間白い結婚状態なら、離縁できる。ルークを解放することができる。
(……もうそれくらいしか、私にできることはないのかもしれないわ)
だからカミラは微笑んで、うなずいた。
「わかったわ。あなたが決めたことなら、私からは何も言いません」
「カミラ様……ありがとうございます」
「ただ、どうか無事でいてね。あなたが元気でいたら、私はそれで十分だから」
ルークさえ無事なら、パメラもきっと安心するだろう。
そのためにも、カミラは二年後にルークを自由の身にさせたい――と思っていたのだが。