十五年の石化から目覚めた元王女は、夫と娘から溺愛される

天国での出会い

 ふわり、温かい風が吹く。

(……ディアドラ?)

 ぼんやりとする意識の中で、カミラは我が子を探して真っ白な世界を歩いていた。

 ディアドラ、ディアドラは、どこにいる?
 かわいい娘は、どこに?

『お母様』

 白い世界の向こうから、少女の声がした。

『こっち、こっちよ、お母様。ほら、お父様も待っているわ』

(ああ、ディアドラ……)

 カミラは声のする方へ、手を伸ばした。

 するともやの向こうからほっそりとした手が差し伸べられ、カミラの手をしっかりと引っ張ってくれた――










 さらり、と風がカーテンをくすぐる音で、カミラは目を覚ました。

「……ん?」

 ぴくっとまぶたが震え、ゆっくり開く。シーツの上に投げ出されていた指先が震え、握ったり開いたりする。

(……ここは?)

 カミラはゆっくり、体を起こした。
 そして今、自分が知らない部屋のベッドに寝かされていることに気づいた。

 カミラが普段使う女主人用の部屋の寝室よりも、少しばかり広い。ベッドはきれいに整えられており、寝返りによるシーツの皺一つない。そしてなぜか枕元には花束が置かれており、甘い芳香が室内を満たしていた。

「……私、なんでここに?」

 ぼんやりとする記憶を辿りながら、カミラは考える。

 あと数日でルークが帰って来るという日の夜、カミラはディアドラに襲いかかる人影を目撃した。なんとかディアドラをかっさらったものの、投げつけられた液体によって体が動かなくなった。

 そして予定を前倒ししたのか、ルークが駆けつけてくれたものの彼の顔を見ることも叶わず、ディアドラを抱きしめたままカミラは命を落とした……と思ったのだが。

(ここは、天国?)

 まだどこかふわふわする意識の中、カミラは裸足のままベッドから降りて窓辺に向かった。そして窓の外に花が咲き乱れる野原が広がっているのを見て、笑いたくなった。

「やっぱりここは、天国なのね」

 だって、王都にはこんな緑豊かな景色はない。それに、吹き込む風は温かい。
 カミラが死んだのは冬だったから、きっと常春の天国に来たのだろう。

 もう夫や娘に会えないのは寂しいが、娘を守り抜いたことを神に褒められ、天国に連れて行ってもらったのかもしれない。ディアドラのことはきっと、ルークが守り育ててくれているだろう。
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