十五年の石化から目覚めた元王女は、夫と娘から溺愛される
兄の策略
国王が、崩御した。
「持病はおありだったそうだけれど、急だったわね……」
「心臓発作ですって? 侍医が到着したときにはもう、息をしていなかったとか……」
国主の服喪期間であるため黒い布があちこちに張り巡らされた修道院もその噂で持ちきりだったため、黒い修道服姿のカミラは小さくため息をついた。
元々、健康とはいえない父だった。好きなものしか食べないので、体は丸々と太っていた。昔はまだましだったはずだがカミラが王都を離れている数年の間に丸さが加速していったようで、侍医も注意はしていたという。
国王が死去し、王太子だった兄のジェラルドが即位した。だが国王の死後三ヶ月間は国全体が喪に服することになっているため、華やかな戴冠式などを行うのは喪が明けてからになる。
父親が死んだ、という知らせが届いても、カミラはあまり動揺しなかった。不摂生でいつ体調を崩すかわからない状態だったということもあるし、そもそも国王のことを父と慕う気持ちがなかった。
(もう少し若ければ、違ったのかもしれないわね)
黒いレースのベールを掻き上げて、夏の終わりの空を見上げながらカミラは思う。
パメラとルクレツィオが婚約報告のために来てくれてから、まだ一ヶ月しか経っていない。今の段階では結婚式の準備などは進んでいないだろうし、向こう三ヶ月間はあらゆる行事が中止になったり延期になったりする。
となると当然、妹夫婦の結婚式もその分後ろ倒しになるだろう。
(いえ、そもそも無事に結婚できるのかしら……)
嫌な予感が湧いてきて、カミラはそっと口元を手で覆った。
兄は、妹が平民出身の騎士の嫁になることにひどく反対していたという。そのときは国王という絶対権力者がいたから婚約がまとまったが、王位を継いだジェラルドなら妹の婚約を破棄することもたやすいだろう。
既に兄夫婦には世継ぎとなる王子も生まれているので、欲深いジェラルドは自分の権力を強めるためにパメラを使うかもしれない。むしろ妹のことを愛しているからこそ、よりよい嫁ぎ先を用意するのではないか。
(二人は、とてもお似合いだと思ったけれど……)
同じ年頃で、まるで友人のように気軽に話のできる二人に見えた。叶うことならこのまま結婚してほしいし……もしそうならなかったとしても、うんと年上の男のところにパメラを嫁がせる、なんてことにはなってほしくない。
(神様。どうか、私のたった一人の家族に祝福を……)
両手を組み、カミラは神に祈った。
……その願いは叶ったようだとカミラが知るのは、三ヶ月後、喪が明けてすぐのことだった。
「持病はおありだったそうだけれど、急だったわね……」
「心臓発作ですって? 侍医が到着したときにはもう、息をしていなかったとか……」
国主の服喪期間であるため黒い布があちこちに張り巡らされた修道院もその噂で持ちきりだったため、黒い修道服姿のカミラは小さくため息をついた。
元々、健康とはいえない父だった。好きなものしか食べないので、体は丸々と太っていた。昔はまだましだったはずだがカミラが王都を離れている数年の間に丸さが加速していったようで、侍医も注意はしていたという。
国王が死去し、王太子だった兄のジェラルドが即位した。だが国王の死後三ヶ月間は国全体が喪に服することになっているため、華やかな戴冠式などを行うのは喪が明けてからになる。
父親が死んだ、という知らせが届いても、カミラはあまり動揺しなかった。不摂生でいつ体調を崩すかわからない状態だったということもあるし、そもそも国王のことを父と慕う気持ちがなかった。
(もう少し若ければ、違ったのかもしれないわね)
黒いレースのベールを掻き上げて、夏の終わりの空を見上げながらカミラは思う。
パメラとルクレツィオが婚約報告のために来てくれてから、まだ一ヶ月しか経っていない。今の段階では結婚式の準備などは進んでいないだろうし、向こう三ヶ月間はあらゆる行事が中止になったり延期になったりする。
となると当然、妹夫婦の結婚式もその分後ろ倒しになるだろう。
(いえ、そもそも無事に結婚できるのかしら……)
嫌な予感が湧いてきて、カミラはそっと口元を手で覆った。
兄は、妹が平民出身の騎士の嫁になることにひどく反対していたという。そのときは国王という絶対権力者がいたから婚約がまとまったが、王位を継いだジェラルドなら妹の婚約を破棄することもたやすいだろう。
既に兄夫婦には世継ぎとなる王子も生まれているので、欲深いジェラルドは自分の権力を強めるためにパメラを使うかもしれない。むしろ妹のことを愛しているからこそ、よりよい嫁ぎ先を用意するのではないか。
(二人は、とてもお似合いだと思ったけれど……)
同じ年頃で、まるで友人のように気軽に話のできる二人に見えた。叶うことならこのまま結婚してほしいし……もしそうならなかったとしても、うんと年上の男のところにパメラを嫁がせる、なんてことにはなってほしくない。
(神様。どうか、私のたった一人の家族に祝福を……)
両手を組み、カミラは神に祈った。
……その願いは叶ったようだとカミラが知るのは、三ヶ月後、喪が明けてすぐのことだった。