十五年の石化から目覚めた元王女は、夫と娘から溺愛される
「パメラは、アッシャール帝国皇子の側室にすることになった。だからカミラ、おまえがあの平民騎士の妻になれ」

 久しぶりに会うなりそう言い放ったのは、異母兄のジェラルド。
 急使からの知らせを受けて急ぎ王城にやってきたカミラは、兄を見上げて呆然としていた。

 急ぎ王城に馳せ参じるように、と言われたときから嫌な予感はしていたが、見事に的中してしまったようだ。

(……なん、ですって?)

「あの、陛下。おそれながら、わたくしがルクレツィオ様の妻にと?」
「あのようなやつに敬称などつける必要はない。おまえも腐っても王族なのだから、その自覚を持て」

 ふん、と小馬鹿にしたように鼻で笑う兄の隣には、穏やかな微笑みを浮かべた兄嫁――王妃がいた。
 名門の出だという王妃はおっとりとした優しげな貴婦人だが、彼女が夫に物申すことは決してないという。彼女はいつも微笑みを浮かべ、兄の言うことなすことを見守っているだけだそうだ。

 パメラと同じ金髪に先代国王譲りの青い目を誇りに持つというジェラルドは足を組み直し、傍らにいた侍従から受け取った書状を目の前で広げた。

「パメラと平民騎士の婚約は、既に解消している。私としてはあのような者を城に置くことすら厭わしいのだが、どうもやつには武術の才能だけでなく兵士を動かす力もあるようで、放逐することはできん」
「……それで、わたくしの夫にと?」
「ちょうどよかろう。売れ残っていたおまえと平民騎士なら、釣り合いも取れるはず」

 とんとん、と勅命が記された書類を指で叩き、ジェラルドは冷めた眼差しでカミラを見下ろしてくる。

(……冗談じゃないわ。王家の勝手な都合で婚約解消しただけでなく、その後釜に私を宛てがうなんて……!)

 カミラは秋の初めに、二十四歳になった。一方のルクレツィオはやっと十六歳になったばかりだという。
 王侯貴族が年齢差のある結婚をすることは珍しくないが、たいていは夫の方が年上だ。妻の方が八歳も上なんて、あんまりだ。

「陛下。騎士ルクレツィオが参りました」
「通せ」

 近衛騎士の言葉に面倒くさそうにジェラルドが応じると、一人分の足音が近づいてきた。だが、振り向くのも怖い。
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