もう一度、きみの音を 〜嘘の世界でもいいから、ずっと一緒にいたかった〜

幸せの違和感

 私たちはその日、外が夕焼け色に染まる頃まで、時間も忘れて話し続けていた。

 カフェの窓の向こうでは、赤く染まった空がゆっくりと青に溶けていく。


 ——あれ? もうそんな時間?


 スマホを取り出して正確な時刻を確認する。


 「18:00」


 ホーム画面に浮かんだその文字を見て、心臓がほんの少しだけ速くなった。


 「……あっ、もう18時だ! ごめん、帰るね!?」


 私は慌ててバッグに手を伸ばし、レジに行こうと腰を浮かせる。


 「え? なんか用事あった?」


 律の不思議そうな声が刺さり、私はその動きを止めた。


 「えっと……いや、用事は……ないんだけど……」


 自分でも、言葉に詰まった。


 ——なんで、帰らなきゃいけないんだろう?


 予定なんてない。門限が決まっているわけでもない。

 急がなきゃいけない理由なんて、どこにもないはずだった。
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