もう一度、きみの音を 〜嘘の世界でもいいから、ずっと一緒にいたかった〜

入院とピアノ

 私達が小学校の高学年になるころ、律は学校に来られない日が増えた。


 「律くんだけど、しばらくの間、お休みすると思います」


 休みがちになった律に、最初は「風邪かな?」くらいに思っていたけれど、帰りの会で先生がそう言ったとき、私の胸がざわついた。


 ——しばらく、ってどれくらい?


 その疑問は、数ヶ月後、登校してきた律と会ったとき、すぐに不安へと変わった。


 久しぶりに会った律は少し痩せていた。

 その姿を見て、律が病気でおやすみをしていたことに私は気付かされた。


 「律くん久しぶり!なんで休んでたの?」

 「久しぶり!大丈夫なのかよ?」


 クラスメイトが律を取り囲む中、私はなぜかその輪に入ることができなかった。


 「大丈夫だよ。ちょっと体調が良くなかっただけ」


 みんなと話す律は、笑っていた。

 でも、その笑顔はどこか頼りなくて、私の心配をかき消すには足りなかった。


 「律」


 放課後、親御さんが迎えに来るからと教室に残っていた律にそっと話しかける。


 「本当に大丈夫?律、なんの病気なの?」

 「さあ。先生がいろいろ言ってたけど、よくわかんねえ」


 そう言って肩をすくめる律の腕は、びっくりするほど細くなっていた。

 私は何も言えなくなって、そっと服の裾をつかむ。


 「すぐ良くなるよね」


 そして、自分に言い聞かせるように、そう呟いた。


 「あ、詩葉ちゃん?久しぶりね、大きくなって」


 しばらくして迎えにきた律のお母さんも、どこか疲れているように見えた。


 「あ……おひさしぶり、です」


 私は胸の不安が消えなくて、手を繋いで帰る律と律のお母さんをしばらくの間、目で追っていた。
< 46 / 114 >

この作品をシェア

pagetop