嫌われ者の側妃はのんびり暮らしたい

側妃になります!

 プレイナス公爵家の長女である私、セリーナが住んでいるノベリルノ帝国の皇室は、世界でもっとも優れた血筋だと言われてきた。なぜ、過去形なのかというと、現在の皇帝陛下が目も当てられないくらいに性格が悪く、お世辞にも優れた血筋だなんて言えなくなったからだ。
 特にそうだと感じたのは、皇帝陛下が二十三歳の誕生日を迎えた数日後のことだった。
 突然、皇室から呼び出しがかかり、妹のジュリエッタと共に宮殿に行くと、大広間に帝国内にいる上位貴族の独身の娘だけが集められていた。
 集められた理由を説明されることもなく、問題の皇帝陛下が目の前に現れることもないまま、ひとりずつ個室に呼び出され面談をされるだけで終わった。そして、それから数日後、皇帝陛下から書状が届いた。
 それはプレイナス公爵家の姉妹を妃に迎え入れるという一方的な内容だった。姉の私、セリーナを正妃に、妹のジュリエッタを側妃にするのだという。

「わたしなんかよりも、お姉様のほうが素敵ですもの。しょうがないですわ」

 ふたつ年下のジュリエッタは私以外の前では猫を被っているが、ふたりきりになれば「意味がわからないわ。わたしのほうが可愛いじゃないの。お姉様が正妃でわたしが側妃だなんてありえないわ」とグチグチと文句を言う。
 ジュリエッタの言うことは間違っていない。彼女はお母様譲りの金色のストレートの長い髪に、髪と同じ色の瞳。ぷっくりとしたピンク色の唇に、透き通るような白い肌を持ち、老若男女問わず人気者だ。小柄で可愛らしい見た目だけでなく、笑顔を絶やさずに優しいふりをするのだから、それは人気も出ることでしょう。
 性根の悪さを見抜いている人は、今のところひとりもいないと思う。今では理解してもらえないと諦めたが、昔は家族や友人たちに真実を訴えていた。
 でも、見目麗しいジュリエッタと、お父様譲りの漆黒の髪に赤色の瞳を持つ、顔立ちも地味な私の言うことでは、妹の言い分が真実となってしまい、私は嘘つき扱いされてしまった。
『姉が妹に嫉妬するなんてみっともない。誰に似たのかしら。あなたを生んだことを後悔しているわ』
 お母様にそう言われた時、私の中で何かが切れた。家族への信頼も周りへの期待もなくなり、家族に関わるとろくなことがないと悟った。
 できるだけ関わらないようにしようと決めたけれど、ジュリエッタは違った。地味な私が近くにいたほうが自分の容姿の良さが引き立つし、チヤホヤしてもらえるからだ。そんなジュリエッタを軽くあしらえば冷たい女。無視すればモラルのない女と言われ続けた。
 公爵令嬢を悪く言うなんて普通はありえない。それがまかり通ったのは、公爵家の名を使うとお父様から怒られたからだ。お父様曰く、娘はジュリエッタしかおらず、私は部外者らしい。
 そんなお父様の態度を見たお兄様も、私のことを妹だと思わなくなった。嫡男だからと甘やかされた彼は、両親に冷たくあしらわれる私を見ているうちに、私のことを本当に妹ではないのだと思い込んでしまった。
 その考えが幼少期だけならわかるが、大人になった今でも続いているのだから呆(あき)れてしまう。
 嫁入り準備を整えていたある日のこと。お兄様とジュリエッタが歩きながら話をしている場面に出くわした。お兄様は私に気づくと声を少し大きくして言う。

「どうしてこんなに可愛いジュリエッタが正妃に選ばれないんだろう。皇帝陛下って目が悪いのかな」
「お兄様、そんなことを言ったらお姉様に失礼ですわ」
「だってそうだろう? ジュリエッタのほうが可愛いし、性格も良いじゃないか」

 顔が可愛いというだけで正妃を選ぶわけがないでしょう。そう言ってやりたかったがやめた。嫡男がこんな様子ではお兄様の代でプレイナス公爵家は没落するかもしれない。
 まあ、それはそれで良いわ。兄や両親から冷たい態度を取られて、私だって最初は傷ついていたのよ。
 でもね、ある時思ったの。私が傷ついたら喜ぶ人間に嫌なことを言われても、傷つく必要はないってこと。その人の性格が悪いだけよね! そんな人のために傷つくなんて馬鹿らしいじゃない。
 
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